「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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ご無沙汰していました
諸事情により先週はいろいろと忙しかった相応恣意です。

いえね、先々週の時点では先週が一番忙しいなと思っていたんですが、先週が期限だったレポートの締め切りがいくつか今週になりまして。

で、かつ本来先週が締め切りだったレポートも存在するわけですから、むしろ備忘録に書いてあった先々週よりも忙しい先週だったわけです。


と、そんな愚痴はさておき、ちょっと久々に百人一首の話題。

先々週の土曜日の練習のときに、ある先輩に次のようなお言葉をいただきました。
・別れ札の取りが上手い。
・札をピンポイントで取ろうとしすぎている、もう少し大雑把なくらいでもいい。

それに対して、先週の土曜日に別の先輩からいただいたアドバイスは……
・別れ札が全然取れていない。
・札の取り方が大雑把過ぎる、もっと正確に。

別にどちらの先輩のアドバイスも間違っているわけではないのです。

どちらもその時点での僕に対するアドバイスとしては的を射ているものでした。

つまり何が言いたいかというと、いくらなんでもムラがありすぎでしょ、僕(涙)。

本当にムラがあるにしたってもうちょっと見られるムラにしたいものです。

一週間の間にいろいろとネタがあった気もするのですが、思い出したらまた書きたいと思います。

というわけで本日はこれで。
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死体(それ)はタイムマシンに乗って -目次-
連載終了です。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
あとは指摘のあった誤字等をチョイチョイなおしていく予定です。

死体(それ)はタイムマシンに乗って -目次-

プロローグ 12/1更新
事件編その1 12/3更新
事件編その2 12/3更新
事件編その3 12/4更新
事件編その4 12/5更新
事件編その5 12/6更新
事件編その6 12/7更新
事件編その7 12/8更新
事件編その8 12/9更新

注意書 12/11更新

解決編その1 12/11更新
解決編その2 12/12更新
解決編その3 12/13更新
解決編その4 12/14更新
死体(それ)はタイムマシンに乗って プロローグ
 俺が最初に知覚したのは、冬になると必ずと言っていいほどかぐことになる臭い――そう、灯油の臭いだった。そして次に知覚したのはもちろん、七年前黒焦げになった蔵に差し込む唯一の光明が照らし出すそれだった。
 ある意味皮肉といえよう。七年前は何もなかったことで人々に畏怖を与えたこの蔵が、今度はそれがあることで畏怖を与えるというのだから。
 もはや無駄であろうとは思いつつも、それのすぐそばまで歩み寄り、確認する。
 そう、それは紛れもなく死体だった。
 つい昨日までは俺たちに毒づいていたその死体のかつての名は諏訪(すわ)燈子(とうこ)。彼女は俺の親友にして探偵仲間でもある本郷(ほんごう)稔(みのる)の依頼人だった。
 隣にいたここの屋敷の現当主である奥野(おくの)美和(みわ)さんが、死体から顔を背ける。必然の流れではあった。目の前にあるのは一体の死体、加えてこの臭いだ。
 気を失いもせずに俺を案内した時点で、十分に気丈といえる。
 諏訪さんが首に残された索状痕からして、絞殺されたのは間違いない。だから死臭と呼べる異臭こそすれ、血なまぐさい臭いはしない。だが代わりにこの蔵には、諏訪さんへの死出の化粧代わりの香水だともいわんばかりに彼女にまんべんなくかけられた灯油の臭いが満ちている。
諏訪さんを殺害した犯人は、一体何がしたかったのだろうか? 何かを燃やしてしまいたかったというのが無難な説ではあるが、だとしても犯人は何を燃やそうとしたというのだろう? 一番考えやすいのは何らかの証拠を隠滅することだが……
「…………」
 俺は黙って周囲を見回した。昨夜見たときとなんらかわりなく、この蔵には何も無い。少なくとも犯人が死体を燃やしてまで隠滅したかった何かがあるとは思えない。そして実際に、何か燃やされたものがあるようにも見えない。もっともこの蔵の中でなら、多少の燃焼の形跡は紛れてしまうことになるのだろうが。
「何してるの? そんなところで?」
 不意にかけられた声に振り向いてみると、奥野さんのすぐ後ろに怪訝そうな面持ちで二人が立っていた。
 そう、諏訪燈子の従姉妹であり、今この屋敷にいる俺たち以外の二人の客人、河内(かわうち)恵子(けいこ)と佐渡(さわたり)静(しず)香(か)だ。
 河内恵子――発言をしてきたほうの女性――が、止めるまもなくひょいと蔵の中を覗き込んで絶句する。
 俺は二人――奥野美和と河内恵子――の視線を黙殺し、蔵の外に出るとその重い鉄扉を閉めた。
「美和さん、稔を起こしてきてもらえますか? 警察には俺が連絡しておきますから」
「え、あ、はい」
 その言葉に気を取り直したのか、美和さんは北棟の稔の部屋へと駆けていった。
 俺は携帯のボタンをプッシュしながらも、考えずにいられなかった。こんな非常事態にものんきに眠りこけている稔のこと、その稔が一週間前、こんな厄介ごとに発展してしまうような依頼を持ちかけてきた日のこと、そして昨日のことを。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その1
「タイムマシンだと?」
「ああ」
 そういって稔は、ちょっと困ったような表情を作った。稔の精悍な顔立ちを台無しにしてしまうその表情は、しかし稔のラフな服装、そして俺、及び父と妹を所員とする勝探偵事務所の悲惨なまでの散らかりようにはピッタリと言えた。
 やれやれと言わんばかりにため息を一つつき、稔は話を再開した。
「今回の依頼人の叔父は、タイムマシンを開発するなんて荒唐無稽な夢を追い、結果実験中の事故で七年前行方不明となっているんだ。で、今回の依頼は……」
「ちょ、ちょっと待て。実験中の事故で命を落とした……じゃなくて、行方不明になっただと? さっぱり訳がわからないぞ」
「話は最後まで聞け」
 たしなめるようにピシャリと言ってのける稔の口調は、子供の頃と全く変わらない。俺がこっそり懐かしさに浸っている間にも、稔は話を続ける。
「だから今回の依頼は、その実験で、依頼人の叔父は一体どこに消えたのかを調べることなんだ。爆発事故が起こったくせに遺体が見つからないせいで、実はタイムマシンは完成していて、その酔狂な研究者は今もまだタイムスリップを続けているとかいう話も出てしまっているらしい。だからまあそのあたりをはっきりさせることが今回の依頼内容だ。……表向きはな」
「表向き?」
 そう、表向きさ、と苦笑とともに呟きながら、稔は話を続ける。
「実際の依頼は叔父の失踪七年を経た今、失踪宣告が出された後に遺産相続のライバルとなるであろう従姉妹たちの弱みを握ること……となんとも後味が悪そうな依頼さ」
 自嘲気味に呟く稔の表情から、彼がこの仕事を快く受け入れたわけではないことは窺い知れる。となると、そんな依頼をなぜ引き受けたのかが気になるところだが、まずはそれより先に聞いておきたいことがある。
「で、その後味の悪そうな依頼の協力を、何で俺に求めるんだ?」
「何故って、そりゃあ……」
 稔は少し考え込むような素振りを見せてから
「お前がSFに詳しいから……かな?」
 と、自信なさげに呟いた。こいつがこういう曖昧な態度をとるときには、必ず何か面倒なことを企んでいるんだが……狙いが読めんな。
 そんな気持ちを無言で伝えるが、知ってか知らぬか、稔は話を続ける。
「ま、補足しておくと俺が依頼人の従姉妹たちの弱みを握るべく暗躍している間に、タイムマシンの実験中の事故の真実をお前に探っておいてほしいわけだ」
「……念のために言っておくが、俺は確かにSFが好きだが、SFに詳しいつもりは全然ない。それに精密機器だったらお前の方が詳しいだろうに」
「サイエンス・フィクションと現実の科学をごっちゃにするなよ。第一俺は通信機器には明るくても、それ以外の機器に対する知識は月並みだぜ。それにほら、どうせお前の事務所、依頼がなくて暇だろう?」
 いくつかの突っ込み所は看過できたが、その言葉は聞き捨てならなかった。
「いや、そんなことはない。別に隠していたわけではないが、うちの事務所はお前のとこより上客の依頼人が、お前のとこの倍くらいいる自信がある」
「この事務所でか?」
 言いながら稔が見渡す事務所は、確かにお世辞にも商売繁盛の様子は片鱗たりとも見られず、乱雑極まりない。この事務所で着席が可能なのは、この事務所の所長である親父と所員である俺と妹、そして幼い頃から入り浸っている稔くらいのものだろう。
「うちの事務所の場合は親父の名声が津々浦々に届いているから、かなり依頼は入るんだよ。でもな、稔。依頼人に会う前に依頼人を殺されてみろよ。交通費はかかるくせに、ほとんどの場合は遺族が渋って金を出してくれないぜ。もちろん裁判所に訴え出れば交通費くらいは得られるかもしれないが、いかんせん時間がかかりすぎるからな」
「依頼人を殺されるって……でもそれは例外中の例外だろう? そんなことはそう何度も何度も起こるものじゃ……」
「うちの事務所の依頼人のうち六割は、俺たちが実際に会う前に殺されているぞ、残念ながら」
「……」
「ま、そんなわけでたまにまともに依頼を受けられたとしても、他の事件の交通費に金が回されちまって、収益はほとんど得られないってわけだ」
「……それってつまり、ここに依頼した依頼人の生存率は約四割ってことか?」
「いや、それは正確じゃないな、稔。俺たちが実際に依頼人にあったとしても、そのうちの五割は殺されているから、生存率は約二割だ」
「……二割……ま、まあそんなに忙しいんだったら、やっぱりいいや、これは俺が一人で」
「いやいや遠慮するな稔。他ならぬ親友のお前の頼みだ。幸い来週はまだ予定も入っていないことだし、お前の依頼、喜んで了解しよう」
 稔の笑顔が多少ひきつっている。まあうちの事務所に幼い頃から入り浸っていた割には裏事情を聞いたのは今日が初めてだから無理もないか。
 そのとき、ふと俺の脳裏にある言葉が去来した。
「領海侵犯」
「……」
「念のために言っておくとこれはさっきの『了解』と『領海』を引っ掛けたんだが……」
「いや、言わなくても分かるよ。長い付き合いだし」
「そうだな、無粋なことをした。ま、生きていたら来週会おう」
 俺の言葉に、稔の笑顔はさらに引きつることとなった。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その2


「『そしてその時の俺は、それが稔を見た最後の姿になるとは、もちろん本気で思ってなどいなかった。今思うと、俺はあのとき何故もっと優しい言葉をかけてやれなかったのだろうか? それが今でも悔やまれてなら……』」
「人を勝手に殺すな」
 運転席から聞こえてきた厳しい突っ込みを前に、俺は口をつぐんだ。
 今、俺は稔(もちろん健在)に運転を任せ、依頼人との待ち合わせ場所にして捜索対象となる奥野家へと向かっていた。
 さきほどから視界に変化は見られず、おまけにコンポは故障中だとかでBGMすらない窮屈な軽自動車の中で数時間揺られていれば、俺の退屈が頂点を極めるのも無理はないだろう。俺は稔をネタにするのを諦めて、素直に今回の依頼の話をすることにした。
「で、念のために確認しておきたいんだが、その依頼人は本気で従姉妹たちの弱みを握ろうと思っているのか?」
「というと?」
「言うまでもないだろうに。たった二日の観察で他人の弱みを握れるなら、誰ものし上がるのに苦労はしないさ。お前の依頼人はそこのところ、ちゃんと分かっているのか?」
「さあ、どうだろうね……でももしかしたら……」
 そういって稔は少し真面目な顔つきとなった。こういうときの稔はなかなか頼りになる。
「もしかしたら?」
 俺は期待に胸躍らせて、稔の言葉を反芻した。
「本当はそっちが“表向き”の依頼なのかもしれない」
「は? 表向きは叔父の失踪事件の調査なんだろう?つまりお前は、従姉妹たちの弱みを握ってほしいというのは建前で、依頼人の本当の目的は叔父の失踪の真相を探ることだって言いたいのか?」
「そういうこと」
「なんだってそんなややこしいことをしなきゃいけないんだ?」
「じゃあお前だったら、『七年前にタイムマシンに乗ってどこかに時間旅行してしまったかもしれない叔父を探してください』って言われたら、迷わずその依頼を受けられるか?」
 微妙だ。果てしなく微妙だ。
「……ま、少なくとも迷わず即答なんて不可能だな」
「つまりはそういうことだよ。それにそう考えると、俺の事務所に依頼を持ち込んだのも納得できなくはないんだよ」
「納得できなくはない?」
 俺が問いかけると、稔は視線を前に向けたまま首を軽く振って、後ろを覗くように合図した。
「後部座席に件の失踪事件の資料をまとめたものがおいてあるから、見てみろよ。そしたら俺が言わんとすることもわかると思う」
 後部座席を覗いてみると、確かにごちゃごちゃと物が乱雑している中に、資料が入っていると思しき封筒が垣間見られた。
 車酔いが気になったが、まあ少しなら大丈夫だろうと高をくくり、それを手にとって眺めてみると、確かにそこには七年前の失踪事件に関する詳細な情報がまとめられていた。だがそこにある資料は、あえて言うならば詳しすぎた。
「稔……これだけのことを本当にたった一週間で調べたのか?」
「調べた事項はほとんど存在しないよ。俺は資料をまとめただけだ。七年前、俺がその事件を担当したときの資料をな」
「なんだって?」
「七年前、この事件の捜査を俺は依頼されていたんだよ。残念ながら俺には、真相を突き止めることは出来なかった。正直に言えば、俺がお前に仕事を頼んだのは、お前が本当に真相を突き止めてくれたらってのもあったんだ」
 稔が大学を中退して探偵業を始めるきっかけとなったある事件が起きたのは、十年くらい前だった。確かその三年後くらいに稔は独立したから、稔が一人で担当したかなり初期の事件、というとになるのだろう。
なるほど、何か企んでいると思ったら、そういうことだったのか。七年前の自分には解決できなかった事件を、俺に解決してほしい、と。
「だったら、最初っから素直にそういえばいいだろうに」
「何か言ったか?」
「いや、気にするな。独り言だ」
それで稔は納得したらしく、ふむと呟き黙った。だがまもなく、やたらと長い塀が見えてきた。
「おっと、そうこうするうちに、目的地が見えてきたぞ」
 稔は視線を前方から逸らすことなく、続けて言った。
「詳しい話は、また後でな」
 俺は軽く頷きつつも、ふと去来したセリフを呟かずにはいられなかった。
「走行するうちに」
 もちろん稔からの突っ込みはなかった。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その3
こぢんまりとした駐車場には、既に三台の車が駐車されていた。
「随分と個性的な車ばかりだな」
 三台の車の割り振りは、真っ赤なスポーツカー、軽トラック、おまけに軽自動車だ。
 車から降りるなり、稔は軽トラックを指差しながら、
「その軽トラックは確か奥野家のものだ。あとその赤いスポーツカーは俺の依頼人の諏訪さんの車で、そっちの軽自動車は河内さんの車のはずだ」
 と説明を加えていく。
「河内?」
「七年前の失踪事件の時もこの屋敷にいた人さ。その資料にも載っているだろう」
 言われて資料をパラパラとめくってみると、確かにそのような記述があった。
「その資料に載っている佐渡さんって人も河内さんと一緒に来ているはずだから、今日この屋敷に集まったのは七年前の事件関係者プラス依頼人の諏訪さん、そしてお前ってわけだ」
「ん? お前の依頼人は、事件関係者じゃなかったってことか?」
「そういうことだ」
 そんな話をしながら徒歩数分で到着したのは、七年前に失踪した奥野氏の館である。建築されてからの経過年数は相当なものらしい、堂々とした佇まいの日本家屋だ。辺りを囲む森が風に揺られて鳴らす音、そしてひぐらしの奏でる調和が、なんとも心地よい。
「どうだ。なかなかに豪華な館だろう?」
「そうか? 中の下くらいじゃないか?」
「……お前、一体普段どんな家の依頼をうけてるんだよ……」
 稔の呟きを聞き流しつつ、奥野家の敷居をまたぐ。出迎えてくれたのは獅子の勇壮な姿が描かれた屏風だった。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」
「あ、はい。お待ちください」
 稔の問いかけに答える声は、屏風の向こうの襖のあたりから聞こえてきた。まもなく襖を開けて出てきたのは、着物が似合う凛とした女性だった。見たところ年齢は三十代後半といったところだろうか?
「あら、本郷さん、お久しぶりです。ええと、そちらの方は……」
「はい、さっき電話で連絡しておいた僕の助手です」
「な……」
 文句を言いかけた俺のセリフを、稔はひじで俺の虚を小突いて止めた。言いたいことはやまほどあったが、とりあえず俺はグッとこらえてことの成り行きを見守ることにした。
 まもなく、俺の服装を見て苦笑いしていたその和服の女性の後ろから、ひょっこりと誰かが顔を出してきた。
「おや? 稔殿のおでましかい?」
「ええ、久しぶりですね。河内さん、それに佐渡さんも」
 稔に「河内さん」と呼ばれた女性は、おそらく七年前にもここにいたという河内恵子のことだろう。資料からすると今の彼女の年齢は三十前のはずだが、両肩にぶら下がるおさげが彼女を幼く見せている。そしてもう一人。
「……」
 稔が「佐渡さん」と言いながら、視線を河内さんの後ろに向けなかったら気がつかなかっただろう。彼女の後ろには、何も言わずに佇む黒髪の長い女性、佐渡静香がいた。服の系統が暗いこともあり、根暗な印象がひしひしと伝わってくる。
「諏訪さんは今部屋にいらっしゃいますけれど、呼んできましょうか?」
 着物の女性が尋ねてきた。河内さん、佐渡さんがここにいて、稔の依頼人の諏訪さんが部屋にいると言うのだから、消去法でいけば彼女はこの館の現当主、奥野美和さんということになるのだろう。まあ今の世の中、他人の家に着物で訪問する女性を見つけるのは至難の業だろうが。
「いえ、あとで構いませんよ。先に荷物を置かせてください。部屋は七年前と同じ場所でいいんですか?」
「あら、やだわ。まだ荷物をお持ちのままでしたわね、ええ、七年前と同じ部屋でどうぞ。助手さんは、隣の部屋をお使いください。鍵はすぐにお持ちしますから」
 稔はそれを聞くと頷いて廊下に上がり、向かって右手に歩き出した。もちろん靴は靴棚へ。河内さんの「あのあんちゃん、やたら奇抜な服装してんなあ」という呟きを無視しつつ、俺もそれに倣う。廊下はすぐに左に折れていて、そこを曲がると右手には部屋がいくつか並んでいる。玄関正面の部屋は襖で区切られていたが、それ以外は普通のドアで隔てられている。部屋がいくつか連なる廊下を歩きながら左手を見てみると、中庭を挟んだ向かい側も同様の構造らしいことが見て取れた。
「ま、見れば分かるだろうけど、この屋敷は中庭を抱えるように大きなコの字の形をしている。便宜上こっち側を北棟、向こう側を南棟、さっき見た襖の部屋の食堂辺りを中央棟って呼んでいる。俺たち以外の客人は南棟に泊まっていて、奥野さんは中央棟に住んでいるんだ、そして……」
 稔は歩みを止めると南棟の突き当たりに視線を向けた。稔の視線の先には、えらく古風な蔵がそびえていた。
「あそこが七年前、失踪事件が起きた蔵だ」
 そうかあそこが……
「と感慨に耽るとでも思ったか? 稔。どういうことだ? 俺が助手だって?」
「やはりそう来たか。いや、だってその方が説明楽だし」
 逃げ口上になりながら、稔は目の前の部屋の戸を開けた。鍵がかかっていなかったところを見ると、さっき奥野さんが言っていた「鍵を後で持ってくる」というのは開錠用ではなく、施錠用だということだろう。ま、それはそれとして
「て、おい、逃げるな。俺の話は終わってない!」
 部屋の中へ入ろうとする稔の腕をつかんで、言葉を投げつけた。負けじと稔も言葉を投げ返す。
「俺は今から食堂に行って依頼を果たすための調査を行う。お前はこれからそこの蔵に行って実地見聞でもしてくれればいい。以上、俺の話は終わり」
「だから、俺がお前の助手ってのは納得行かないんだよ。それに依頼人に弱みを握るように言われたのはあの二人だろう。あんな二人にとても裏があるようには思えな……」
「甘いな」
 稔が急に真面目な顔つきになって俺の言葉を遮った。急にひぐらしが鳴きやみ、風がザワザワと木々を揺らす音だけが聞こえる――そんな錯覚に襲われる。
「彼女たちにも裏の顔ってのはあるんだよ。そしてその一面を、お前は間もなく目の当たりにすることになるだろうよ」
 稔の異質な雰囲気に気圧されて、俺はつかんでいた稔の腕を離してしまった。だが俺がつかんでいた腕を離すなり、
「ま、そういうわけで後はよろしく」
 稔は部屋の戸を閉め、鍵を閉めてしまった。
「あ、待て、この」
 慌ててノブを握るが、もちろん施錠されたドアが俺の力如きでこじ開けられるはずもなく、ドアは開きはしない。そんな俺をあざ笑うかのように、今度はやかましくひぐらしの鳴き声が聞こえてくる。
 俺は諦めて隣の部屋に荷物を投げ込み、蔵の調査へ出向くことにした。
 部屋の広さが家の事務所よりも広く感じたのは、室内の家具が椅子と鏡台とベッドのみという殺風景極まりない部屋だったからだと信じたい。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その4
 南棟の突き当たりに位置する蔵に行く前に、北棟の突き当たりには一体何があるのか確認したくなるのは、俺の探偵としての性ゆえであろうか? とりあえず参考程度になるだろうと、俺は北棟の突き当たりへと向かった。
 正確に言えば廊下の突き当りには何もなく、突き当りの先に離れがあった。南棟の蔵についても同様の構造だ。突き当たりの先の縁にあったスリッパをはく。靴を持ってこなければ中央棟経由でぐるりと回らなくては蔵まで行けないと思っていたが、これでショートカットできそうだ。
 歩数にして僅か三歩離れた離れの戸を開けてみると真っ先に視界に飛び込んできたのは折戸だった。一応中に入り込んでみてみたが篭に鏡、そして体重計とくればそこは紛れもなく
「そこは浴室です」
 そうそう、ん? 後ろからかけられた声に反応して振り向くと、廊下の突き当たりに奥野さんがいた。
「気をつけてくださいね、私は部屋にお風呂があるから構いませんが、みなさんの部屋にはお風呂がありませんので、入浴中の札がかかっているときは、入浴はご遠慮ください。それとお部屋の鍵、お渡ししておきますね」
 浴室に関する説明を加えてニッコリ微笑むと、奥野さんは右手に持っていた鍵を差し出してきた。
「あ、どうもわざわざすみません」
 俺はすぐに離れを出ると、奥野さんのもとに駆け寄り、鍵を受け取った。
「稔にはもう渡しましたか?」
「はい、先ほどお渡ししたら、すぐに食堂の方へ向かわれましたよ」
 あの野郎いつの間に。
「それじゃ、主人の行方が分かりましたら、またご連絡くださいね」
 俺はそのセリフの意味を理解するのに多少の時間を必要とした。分かってみれば簡単なことだ。彼女はまだ、自分の夫が生きていると確信しているのだ。七年の月日が経とうとしている今でさえ。
「ええ、必ずお伝えしましょう」
 俺は軽く心に鈍痛を覚えつつ、一礼してその場を立ち去る奥野さんを見送り、中庭の端を突っ切って蔵へと向かった。中庭は古式ゆかしい純日本庭園で、松に梅に、池のほとりにはしだれ柳。幸か不幸かそんな庭園に興味を持つほどの芸術センスを持たない俺は、それらに見とれることなく蔵にたどり着いた。
 蔵は遠目でみた印象のとおり、古風でどっしりとした建築だった。同じくどっしりとした鉄扉を開けてみると、中の壁はどこもかしこも真っ黒こげとなっていた。
「七年前の昨日、ここで奥野(おくの)敏郎(としろう)氏(63)が作業をしていたはずの時間帯に、蔵から爆音が響いてきた。それを聞いた彼の妻の美和さん、そして当時たまたまこの屋敷に滞在していた河内さんと佐渡さんが慌てて蔵にやってくると、蔵の中は真っ黒焦げ。おまけに敏郎氏の姿が見えないばかりか、蔵の中にあったはずの資材がすっかり消えていた……か」
 俺はさっき稔にもらった資料を反芻しつつ、蔵の中をぐるりと見渡した。確かにあたり一面真っ黒焦げで、蔵の中には何も見当たらない。七年もの間この蔵を遊ばせていたというのはもったいない気もするが、抜け道がないかどうか探すうえでは好都合と言える。
 ちなみにタイムマシンと一口に言っても、未来から来た猫型ロボットが使っていたような出入り口を限定しない移動型と、出入り口が限定される据え置き型の二つに大別できるわけだが、敏郎氏が研究していたのがどちらであったかは、残念ながら稔からもらった資料ではわからなかった。それによって、具体的に探し方に違いが出るかといえば、それはまた別の話となるのだが。
 声をかけられたのは、そのようにタイムマシンについてつらつらと考えていたときだった。
「どう、何か分かりそう?」
 声のほうを振り向くと、顔は影になっていて良く見えないが、そこには背の高いショートカットの見知らぬ女性が立っていた。
「あなたは?」
「諏訪燈子。あなたのお友達の依頼人よ」
「すわ何事」
「は?」
「いえ。気にしないでください」
 いかんいかん、また初対面の人に向かっていらぬ癖を出してしまった。
「ま、それならいいけれど、でも建前の仕事を真面目にやるなんて、あなたたちも律儀ね」
「へ? 建前ですか?」
「あら、聞いていないの? 私の依頼では、こっちは建前なんだけど……」
「いや、聞いていないわけではないんですが……」
 おかしい。稔の読みでは、こっちが本音、従姉妹たちの弱みを握ると言うのは建前のはずだが、深読みだったのか? だがそんな俺の徒然なる思考は、彼女が一歩こちらに歩み寄り、彼女の顔が見えるようになると同時に中断された。
「……あんた、もしかして去年のキャンキャン四月号で表紙を飾っていなかったか?」
はっきり言って美麗な顔つきの彼女は、確かにそれと一致するものだった。
「あら、よく覚えていたわね、そんな昔のこと。しかも女性雑誌の仕事だし。あんたもしかしてストーカー?」
 な、口悪いな、こいつ。
「いやいや、キャンキャンは妹の愛読雑誌なんだよ。で、去年の四月号はたまたま印象が強かっただけだ」
「あっそ、ま、別にそういうことにしてあげてもいいけれど。でもまあ、あんたみたいな格好している奴の妹のファッションセンスなんて大したことないでしょうけれど」
 言い忘れていたが、俺は上下ともに空色のスーツでビシッと決めている。そして俺は三度の飯を抜かれることより、俺のファッションをけなされることが嫌いな男でもある。なぜならこのファッションは俺の信念の象徴。即ち俺のファッションをけなされることは俺の信念をけなされることを意味するからだ。
 烈火の如く反論しようとした途端、チャラッチャラ~と、最近流行の韓国ドラマの着メロが聞こえてきた。
「あ、電話だから、それじゃ」
 言うなり諏訪さんは蔵から離れていってしまった。反論の機会も、質問の機会もいきなり奪われてしまった。追いかけようかとも思ったが、それじゃあ本当にストーカーだ。また後でゆっくり話を聞けばいいかと単純に考え、蔵の調査を再開することとした。
とは言っても真っ黒こげなだけで、本当に何一つない蔵だ、抜け道の有無を確認する程度しかやることはなかったのだが。
 別に蔵の中でありもしない抜け道を探した俺の行為が間違っていたとは言わない。ただ、まさかそれが彼女との最初で最後の会話になるとは微塵たりとも考えなかったのは、決して無理からぬことではないだろうと思う。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その5
結局俺は、蔵の中を数時間這いずり回り、何一つ見つけることなく部屋に戻った。部屋に戻った俺は稔にもらった資料を改めて確認しなおそうと思い、眺めているうちにいつの間にか眠ってしまったらしかった。
目が覚めたのは九時前だった。
「……寝すぎた」
 俺の呟きは、真っ暗な部屋に吸い込まれ消えた。とりあえず小腹が空いた俺は、食堂で何か食物がないかを探すことにした。

この屋敷に到着したときに奥野さんが出てきた襖を開けると、中にいたのはテーブルを拭いている奥野さんと、自前のノートパソコンで何かしら音楽を聴いているらしい稔だった。
「よう、今頃お目覚めか?」
 稔の皮肉を軽く手を振って受け流し、奥野さんに
「すみません、何か食べるものはありませんか」
 と尋ねてみた。
「あ、先ほどみなさんにお出しした残り物でよしければ……」
「それください」
 はい、と頷き彼女は厨房の方へ消えていった。その時だった。
 食堂の隅の電話が鳴った。
「奥野さん、電話ですよ」
「あ、はい、きゃっ!」
 軽い悲鳴とともにドンガラと何かが落ちる音が聞こえてきた。俺は夕食にありつくことへの諦めを抱きながら、奥野さんの代わりに電話に出てやることにした。ここの電話は発信元の番号が表示されるディスプレイが存在しないようだったので、このまま電話が切れたらかけ直すことが出来ないと思ったからだ。
「もしもし?」

「もしもし! よかった、出てくれて。閉じ込められたの! 早く出して! いえ……その前に美和叔母さんに代わってちょうだい!」

電話口から聞こえてきたのは切羽詰った諏訪さんの声だった。眠気が一瞬で吹っ飛ぶ。何か諏訪さんの身に、のっぴきならない事態が起こっているのか?
「落ち着いてください、諏訪さん。閉じ込められたって、今自分がどこにいるかは分かりますか?」

「は? どこって……そっちで分からないの?」
 
そしてそれが、俺が最後に聞いた諏訪さんの声だった。

「もしもし、もしもし!」
 唐突に切れた電話の受話器から聞こえてくるのは、気がつけばツー、ツーと無情に響く電子音のみとなっていた。
「くそっ!」
 俺は受話器を叩きつけると厨房の方を睨みつけた。折よく奥野さんが現れる。
「すみません、誠に申し訳ないんですが……」
「奥野さん! この屋敷内に外から鍵をかけられ、かつ内側から開けることが出来ないような場所は存在しますか?」
「は?」
「いいから答えてください! そういう場所はありますか!」
「え、ええ、蔵なら外から南京錠をかければ、内側からは開けられなくなります。ここ数年かけたことはありませんが……あ、どちらへ?」
 俺は奥野さんのセリフを最後まで聞くことなく、南棟の先、昼間見たあの蔵へと向かった。
「おい、どうしたんだ?」
 イアホンを外して稔が尋ねてきたが、構わず俺は食堂を走り出た。あとから奥野さんもついてくる。
 ほどなく蔵にたどり着いた俺はペンライトを鉄扉に向けたのだが……
「鍵がかかっていない?」
 昼間見たときには気がつかなかったが、確かに鉄扉には南京錠がぶら下がっていた。と言ってもあくまでそれはぶら下がっていただけだ。別にかけられているわけではない。
 おかしいと思いつつも俺は鉄扉を開けた。ペンライトで照らすが、やはり人がいた形跡は見当たらない。
 俺が蔵の前でしばらく立ち尽くしていると、遅れて稔もやってきた。
「どうしたんだよ、一体何があったんだ?」
「さっき諏訪さんから電話があったんだ。どこかに閉じ込められたらしいんだが……」
「閉じ込められた?」
 稔が目を丸くする。稔を無視し、俺は南棟の部屋を手前から順に片っ端から開けていった。勿論誰もいない。奥から三番目の部屋に至り、初めて鍵がかけられている部屋にあたった。
「そこは、燈子ちゃんの部屋ですね」
 俺のいわんとするところを理解してくれたのか、奥野さんはマスターキーと思しき鍵で黙って開錠してくれた。扉を開けて電気をつけるが、家具がほとんどないので、人が隠れるスペースはさして見当たらず、それゆえに誰もいないのは一目瞭然であった。
「何しとるん? こんな時間に」
 声のほうに顔を向けると、河内さんが一番奥の部屋から顔を覗かせていた。相当顔が赤い。酔っているのだろうか? というかそもそも、どうして関西弁なのだろうか? 酔うと地が出るタイプなのか?
「諏訪さんを探しているんですよ、さっき『閉じ込められた』って電話をよこしたきり、連絡がつかないんです。どこに行ったかご存知ありませんか?」
俺の緊迫も疑問をもものともせず、稔が問いかける。
「知らんなあ。あいつのことやから、ただのいたずらとちゃうん? ……でも、稔さんは、あんなわがまま娘がタイプなん? 私という、私という存在がありながら……」
 と言うなり、いきなり泣き出してしまった。呆気に取られる俺を尻目に、
「おい、部屋の前で泣くんじゃねえ! あたしがお前をいじめているみたいじゃねえか、さっさと部屋に入りやがれ!」
 部屋の中から怒号が聞こえてきた。聞き覚えがない声だが、もしかして……
「落ち着いてください、佐渡さん。すぐに僕たちも退散しますから」
 稔の声で確信する。やはり佐渡さんだったのか。もしかして河内さんは泣き上戸で、佐渡さんは怒り上戸……ということなのだろうか。
 ふと稔と目が合う。その目は言っていた。「意外な一面が見れただろう」と。あまり嬉しくないタイミングではあったが、先ほどの稔の言葉の真意を俺は理解することとなった。
 一応こっそりと部屋の中を窺ってみたが、部屋の中には河内さんと佐渡さん以外誰かがいる気配は無かった。

 その後俺は念のために駐車場を(考えてみれば駐車場にとめられている車には、どれも人が隠れるスペースはない)、稔と奥野さんは手分けして屋敷内の他の部屋の探索を、そしてその後皆で中庭の捜索をしたが、諏訪さんの発見には至らなかった。結局俺たちは、河内さんの「いたずらじゃないか」という言葉を信じ、その日の探索を打ち切ることにした。そこに多少の楽観があったことは否めない。

「本郷さん、本郷さん」
 翌朝、俺は隣の部屋の戸を叩く音で起こされた。
「無駄ですよ、奥野さん、稔の寝起きの悪さは俺が保証します。そう簡単には起きませんよ」
 俺が顔を出してそう告げると、奥野さんは明らかに安堵の表情を見せた。
「あの、あなたでも構わないんです、燈子ちゃんが……」
「見つかったんですか!」
 寝ぼけた頭が昨日と同様、瞬時に覚醒する。
「はい、その、でも……」
 そういったきり、彼女は言葉を詰まらせてしまった。顔面蒼白な彼女の挙動を見れば、俺でなくても彼女の言いたいことは分かっただろう。
「案内してくれませんか?」
 俺はただ一言そう告げた。そして彼女が案内してくれたあの蔵の中で、俺は変わり果てた諏訪燈子の姿を見たのだった。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その6


「茨城県警の天野です」
「同じく御堂です」
 二人の刑事はそう言って、それぞれ手帳を示した。それなりに顔は広いが、どちらも知らない名だった。いや、ある意味よく知っていた。天野という姓の女性のフルネームが天野橋立、御堂という姓の男のフルネームが御堂筋。俺がボケ担当でなかったら間違いなく突っ込んでしまう名前だ。
 まあ名前に関しては俺もコンプレックスがあるし、人のことは言えないか。
「稔はあの刑事のうちのどちらかと知り合いだったりしないか?」
 簡単な事情聴取を終えた俺は、稔の部屋にあがりこんでそう尋ねたが、稔の返事は
「いや、初めて見る顔だけど」
 という残念なものだった。どうやら刑事から情報を得るのは難しそうだ。とりあえず何とか自力で情報を集め、推理を組み立てるほかあるまい。
「しかしとんでもないことになっちまった……まさか依頼人が殺されちまうとは……」
 そう言って稔は苦渋の表情を浮かべた。
「ま、お前のような名探偵がいるんだ。事件はきっとすぐに解決するだろうよ」
 と言いながら、誇らしげに昔と変わらぬ視線を俺に向ける。まったく、人の気も知らないで。
「そんなに簡単に言われても困るんだが……とりあえず事件前後のアリバイを検証してみるとするか」

「さてと、まずは事件の経過を確認しようか。稔が最後に諏訪さんの姿を見たのはいつだ?」
「夕食のときだよ。多分それ以降は誰とも会ってないんじゃないかな」
「どうしてそう思うんだ?」
「え? あ、そうか、お前は夕食のときいなかったもんな。いや、夕食のとき諏訪さんと河内さんが口論になってな、諏訪さんの方が相当ピリピリしてたから。お前が会ってなければ、多分他の人とは会ってないと思う」
「なるほどね……ちなみに口論って一体どんな内容だったんだ?」
「大したことじゃないよ、ただ河内さんが諏訪さんの家は敏郎氏の財産を相続するまでもなく裕福じゃないかっていう一種の愚痴みたいなものさ」
 そういえば昨夜眺めた資料によると、確か河内さんは自動車の修理工場で事務員を、沢渡さんは海外資本の会社でOLをやっているのに対し、諏訪さんは未婚でありながら定職についていない。ある意味それは、彼女の家の裕福さを表しているといえるだろう。
「なるほどね、ちなみにそれは何時ごろの話だ?」
「そうだな……多分八時ごろの話だと思う」
「よし、俺があの電話をとったのは九時ごろだったから、八時から九時の間のアリバイが無いやつが怪しいってことになるわけか」
 彼女がどこに監禁されていたか、というのは未だに分かってはいないが、犯人は彼女を監禁するためにそれなりの時間を要しているはずだ。この時間帯にアリバイがないやつは、と。……あれ?
「……これはやばいんじゃないか?」
「ああ。やばいな」
 結論から言おう、その時間にアリバイがないのは一人しかいなかった。
 奥野さんは夕食の後もずっと食堂におり、それは同じく食堂にいた稔が証明することができる。
 河内さん、そして佐渡さんは夕食を食べてから二人でずっと酒を飲み明かしていた、というのは先ほど本人たちが言っているのを聞いた。つまりアリバイが無いのは……
「俺だけってことか……」
「まったく、なんで夕食時に寝るかなあ……」
 しかも悪いことに、俺が電話を受けた時点でも全員にアリバイがある。唐突に切れた電話、あれを犯人が電話をかけている諏訪さんに気付き止めたものだとすると、犯人は諏訪さんの近くにいたことになる。それさえも出来る人物が屋敷内にいなかったってことは
「犯人は外部犯……と考えるのはここのど田舎っぷりを考えると少々非現実的だし、やっぱり警察は、あの電話は俺の狂言だと考えるんだろうな」
 困った。非常に困ったことになった。アリバイの面から見ると、俺の立場は非常に危うい。唯一の救いは昨夜九時半頃からは誰にもアリバイがないことだろうか? いや、俺にもないんだから救いにはならないか……
 待てよ、そういえば無いといえば……
「稔、動機の面ではどうなんだ? 俺やお前はともかく、残りの彼女たち三人に諏訪さんを殺す動機はあるのか?」
「諏訪さんを殺すような動機ねえ……とりあえず遺産の相続に関しては動機は持ち得ないだろうけれど」
「そうなのか?」
「ああ、彼女ははっきり言って人当たりのいいってタイプじゃなかったら、今回の遺産配分は大してないだろうって見立てだったからね」
 少なくとも人当たりが良くないというのは、昨日の時点で十分に身に染みている。おそらくは稔の意見は的を射ているのだろう。だが一番考えやすい遺産による動機が考えにくいとすると、どう考えたものか。
「もしかしたら、あれじゃないか?」
「あれ?」
「ほら、昨日の車の中で言っただろう。彼女の今回の依頼の本当の目的が蔵の再調査の方なんじゃないかって。だから動機はそっちの方にあるって考えられないか?」
「いや、それは無いんじゃないか。諏訪さんが自分で否定していたし」
「え? 諏訪さんが?」
 俺は昨日の諏訪さんとの蔵での会話をかいつまんで説明してやった。
「なるほど……じゃあ結局のところ、彼女の今回の依頼の本当の目的は分からず仕舞いか……」
 とはいえ、犯人が諏訪さんの目的がそこにあると勘違いして殺害した可能性は心にとどめておくべきかもしれない。
「でも動機も大事だけど、もっと忘れちゃならないのは、彼女の監禁場所だぞ。この屋敷の中に中からは開錠できず、外から施錠することができる部屋なんて、蔵を除いて無いんだから」
 そう、それもまたネックとなる。たとえば単純に河内さんと佐渡さんが共犯だとする。それならアリバイを崩すのも容易だが、それだけじゃだめだ。たとえ犯行時のアリバイが崩れたところで、彼女たちにはあの電話の時間のアリバイがある。少なくともあの部屋に諏訪さんはいなかったし、他の部屋に彼女が閉じ込められていたとしても、ドアは簡単に内からロックを解除できる。わざわざ助けてくれなんて電話をするはずがない。おまけに南棟の部屋に関しては、少なくとも電話の直後に諏訪さんは発見されなかった。
「そういえば諏訪さんには灯油がかけられていたな、あれは犯人のアリバイに関係したりはしないかな?」
「さあ、どうだろう、犯人が七年前の事故に見立てようと思っていたってのはわかるんだが……」
「七年前の事故? どうしてそれが七年前の事故につながるんだ?」
「ん? あ、そうか、お前は七年前は現場にいなかったもんな。七年前あの蔵の中はガソリンの臭いが充満していたんだ。資料には書いていなかったかもしれないな」
 七年前の事故では、蔵の中で一人と多くの資材が消えた。そして今回は一人が消え、そして翌朝に死体となって現れた。
 そこで我ながら滑稽な考えを浮かべてしまう。それはあの蔵の中にいた犯人が、絞殺した諏訪さんをタイムマシンに乗せ、翌朝に運んで現すというあまりにも荒唐無稽な考えだった。
「まさか…………ね」
 言葉ではそういいながらも、なんとなく自信を持って否定できない。ザワザワと木々が揺らめく音につられて開け放たれたドアの向こうの中庭に目を向けると、しだれ柳が何も語らず、ただただ不気味にゆれていた。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その7
不意に視界が遮られる。なんのことはない、ドアのところに人が立てばそうなるのは自明なことだ。
「ちょっとよろしいですか? 勝さん?」
 扉の前に立ったのは、二人の地名刑事だった。早速おでましか、と心の中で呟く。
「構いませんが、ご用件は何でしょうか?」
 多少の皮肉をこめて尋ねてみる。すると意外にも二人は苦虫を潰したような表情を見せ、互いに顔を見合わせた。そしてため息を一つつくと、諦念を漂わせつつ御堂刑事は言った。             「捜査にご協力を願いに伺いました」
 言葉の真意を掴みかね、一瞬返答に詰まる。      
「すみません、今なんて?」          
「ですから、捜査にご協力願いたいと言っているんです!」
 そう言ってから御堂刑事は今度はあからさまにため息をついてみせると、              
「上からの命令なんですよ! 全く、あんたは何なんだ、どう考えたってこの中で一番怪しいのはあんたななのに、なんでそのあんたに協力を……」
 と愚痴をブツブツとこぼし始めた。
 なるほど、誰かは具体的には分からないが、以前俺が事件解決に協力したときの刑事が気を利かせてくれたらしい。情けは人のためならず、といったところだろうか。
 とりあえず俺は現時点でかけられる最大限の慰めの言葉をかけてやることにする。         
「大丈夫ですよ、御堂刑事、天野刑事。今日中にお二人には、この事件における真実をお見せして差し上げますから。すぐにその不愉快な気分は一掃できます」

 その後、二人の地名刑事は、渋々ながら俺と稔を南棟の空き部屋に案内してくれた。そこには暫定的に諏訪さんの所持品が保存されていた。
特段これと言って、彼女の所持品の中に気になるものは見当たらない。あるものを除いては。
 俺は諏訪さんの携帯電話をとると、念のためにと思いつつ稔と一緒にあることを確認したのだが……
「あれ?」
 その結果は、俺の予想に反するものだった
(これは一体……)
 その意味を考えながら携帯を操作していると、留守録が一件残されていることに気がついた。メッセージが残されたのは、昨夜の八時五十四分だ。
 一応二人の刑事に了承をとってから、その留守録されていたメッセージを確認すべく、再生ボタンを押す。
『あ、姉ちゃん? いつものドラマだけど、またタイマー予約を入れてくの忘れただろう? 代わりに入れといてやったから、感謝しろよ』
 俺も稔も黙りこんでしまった。この時この声の主は、自分の姉がどんな目にあっているのか想像だにしなかっただろう。自分が暮らしてきた日常があっという間に壊れる瞬間、そんなものの存在さえ想像できなかったに違いない。日常と非日常の間に隙間なんてほとんどないことに、気がつかなかったに違いない。そう、これはまるで
「十年前の俺みたいだな」
 寂しげに稔は、そう呟いたのだった。

「御堂刑事、天野刑事、もう少し聞いておきたいことがあるんで、ここは稔に任せてちょっと廊下に出ましょうか」
「廊下に? わざわざ廊下に行かなくとも、別にここで……」
 言いかける御堂刑事の襟を掴み、天野刑事が率先して廊下へと出る。去り際こちらを一瞥すると何か言いたげな表情を見せたが、そのまま何も言わずに部屋を辞去した。
 そんな彼女の心遣いに痛み入りつつ、俺もその後に続く。
「じゃあ稔、ここは任せたぞ」
 ああ、と力なく呟き、稔は手を軽く振った。出来るだけ早く稔がいつもの調子を取り戻してくれることを望みつつ廊下に出ると、二人は蔵のほうに向かってズカズカと進んでいる最中だった。
「わざわざありがとうございます、天野刑事」
 その背中に俺は感謝の言葉をかける。彼女は振り返ると、
「別に礼を言われるほどのことじゃありません。あなたが今日中に事件を解決できないようなら、あなたを最重要参考人として連行する、ただそれだけのことですから」
 それだけ言って再び前を向き、歩き始めた。
「お、おいおい、彼は何か聞きたいことがあって私たちを呼び出したんじゃ……」
 未だに空気の読めていない御堂刑事のために、折角だから一つ質問をしておく。
「そうですね、じゃあ諏訪さんの死亡推定時刻を教えてもらえませんか?」
「ああ、そういえばまだ言ってなかったな、しっかりとした検死をしなければなんとも言えないが、少なくとも昨日のうちには殺害されていたようだ。それと彼女には、麻酔で眠らされた形跡があったそうだ」
「麻酔?」
 それは意外な情報だった。確かに犯人が彼女を監禁するために麻酔を使うのは不自然ではない、だがそれならなぜ彼女は電話を使うことが出来たのだろう。
「ああ、そうそう、それと事件と直接関係あるかどうかは分からないが、面白い情報が一つあるぞ」
「なんですか?」
 あまり期待せずに、続きを促す。
「殺害された諏訪燈子の車なんだが……」
死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その8
 *

 蔵へと向かう二人の背中を見送りながら、俺は今得た情報の持つ意味を考えていた。前者の情報が俺にもたらしたのは混乱、そして後者の情報が俺にもたらしたのは一つの可能性。
 とりあえず部屋に戻って考え直そうと振り返った俺は、縁側に座り黄昏ている河内さんに気づいた。
「どうかしましたか、河内さん?」
 声をかけると、彼女はゆっくりこちらに顔をむけた。
「なんだ、あんたか。稔の方だったら良かったのに」
 そういった彼女の表情は、昨日とは打って変わって沈んだ表情だった。
「不思議なもんだよね」
「え?」
「あんな奴いなくなっちゃえばいいってずっと思っていたのにさ、いざいなくなっちゃうと……足りないんだよ、何かが。なんでかな、ほんとに……」
 そういえば稔が、昨日諏訪さんと河内さんが口論になったとか言っていた。おそらくそういったことが彼女たちにとっては決して珍しいことではないくらい、二人は仲が悪かったのだろう。それでも……そうであっても彼女は喪失感を覚えずにはいられなくて……
「ダメだ、うん、こんなのは私らしくないや」
 言うなり彼女は立ち上がるとそそくさと自分の部屋に戻っていく。すれ違うときに彼女のまなじりに見えたものに対して俺は疑問を持つことはなかった。
「ああは言ってますけれど、昔は二人は本当に仲が良かったんですよ」
「うわっ!?」
 いきなり後ろからかけられた声に驚いて振り向くと、そこには小さなトートバックを持った沢渡さんが立っていた。いつの間にいたんだ、この人。
 そんな俺の疑問に構わず、彼女は語る。
「二人とも頑固だから……理屈では分かっていても、どうしても相手の言い分が認められなくって……起こってしまったことはどうしようもないっていうのに」
 それだけ言うと、ラベンダーの残り香を置き土産に彼女もまた自分の部屋に戻っていた。なんと言うか、掴めない人だった。
(ん? そもそも昨日はこんな香りしてたっけ?)
 どうにも自信が持てなかったが、それはなんとなく忘れてはいけないことのような気がした。
 
 結局のところ、明確な答えを見つけられずにいた俺は、今、シャワーを浴びるべく風呂場に来ていた。風呂場の外のかけ札を入浴中にかけかえ、脱衣場へ入る。
 俺は気分転換によくシャワーを使う。逆にそうでないときはほとんどシャワーはもちろん風呂にも入らないので、気の置けない仲だと最後に風呂に入ったのはいつだ、なんて言われてしまうのだが……
 それはともかく、考えなければならない点は大きく四つ。
 諏訪さんを監禁、および殺害した犯人は誰なのか?
 犯人はいかにしてアリバイを手に入れたのか?
 犯人は何故、死体に灯油をかけて七年前の事故に見立てようとしたのか?
 そして犯人は、諏訪さんを一体どこに監禁していたのか?
 ああは言った手前、今日中にはこの事件を解決したいところだが……なんて考えながら服を脱ぎ、パンツに手をかけたところで風呂場の扉が開いた。
 反射的に扉の方に目を向け、彼女と――河内さんと目が合う。一瞬で彼女の顔が引きつる。
「な、なんでここにあなたが!」
 金切り声で叫ぶ河内さん。
「いやいや、それはこっちのセリフですって!」
 俺は慌てて脱いでいた服を着なおしながら、彼女に反論する。
「だ、だって、昨夜はいつも通り静香ちゃんとお酒を飲んで酔いつぶれたからお風呂には入れなくて――」
「そうじゃなくって、俺は掛札を入浴中にしたはずですよ」
「だ、だって、さっき静香ちゃんが上がったばかりだから、掛けなおすのを忘れていたのかなあ……って」
「……あのな、そういう時は自分の家じゃないんだから普通は遠慮して……」
 
そのとき

今日と昨日で見聞した様々な事実と

おれ自身が持つ様々な知識が

頭の中を入り乱れ

青天の霹靂の如く一つの推理が組み立てられた。
 
 俺は河内さんの発言に耳を貸すのをやめ、すぐさまあることを確認した。
 そしてその推理は確信へと至る。
 そう、俺の頭の中ではこの事件の真実という名の絵が描き上げられていた。
死体(それ)はタイムマシンに乗って 注意書
◆ここからは解決編となります。
 ですがその前に、一度この事件の真相を考えて見ませんか。
少なくとも探偵が掲げた四つの謎

――諏訪さんを監禁、および殺害した犯人は誰か?
――犯人はいかにしてアリバイを手に入れたのか?
――犯人は何故、死体に灯油をかけて七年前の事故に見立てようとしたのか?
――そして犯人は、諏訪さんを一体どこに監禁していたのか?

 これらの謎を解くための伏線は事件編にて提示されています。

 正しいという確信が持てなくても構いません。
 自分なりの答えを持てた方は、どうぞ解決編へ……
死体(それ)はタイムマシンに乗って 解決編その1
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