「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その3
こぢんまりとした駐車場には、既に三台の車が駐車されていた。
「随分と個性的な車ばかりだな」
 三台の車の割り振りは、真っ赤なスポーツカー、軽トラック、おまけに軽自動車だ。
 車から降りるなり、稔は軽トラックを指差しながら、
「その軽トラックは確か奥野家のものだ。あとその赤いスポーツカーは俺の依頼人の諏訪さんの車で、そっちの軽自動車は河内さんの車のはずだ」
 と説明を加えていく。
「河内?」
「七年前の失踪事件の時もこの屋敷にいた人さ。その資料にも載っているだろう」
 言われて資料をパラパラとめくってみると、確かにそのような記述があった。
「その資料に載っている佐渡さんって人も河内さんと一緒に来ているはずだから、今日この屋敷に集まったのは七年前の事件関係者プラス依頼人の諏訪さん、そしてお前ってわけだ」
「ん? お前の依頼人は、事件関係者じゃなかったってことか?」
「そういうことだ」
 そんな話をしながら徒歩数分で到着したのは、七年前に失踪した奥野氏の館である。建築されてからの経過年数は相当なものらしい、堂々とした佇まいの日本家屋だ。辺りを囲む森が風に揺られて鳴らす音、そしてひぐらしの奏でる調和が、なんとも心地よい。
「どうだ。なかなかに豪華な館だろう?」
「そうか? 中の下くらいじゃないか?」
「……お前、一体普段どんな家の依頼をうけてるんだよ……」
 稔の呟きを聞き流しつつ、奥野家の敷居をまたぐ。出迎えてくれたのは獅子の勇壮な姿が描かれた屏風だった。
「すみません、どなたかいらっしゃいませんか?」
「あ、はい。お待ちください」
 稔の問いかけに答える声は、屏風の向こうの襖のあたりから聞こえてきた。まもなく襖を開けて出てきたのは、着物が似合う凛とした女性だった。見たところ年齢は三十代後半といったところだろうか?
「あら、本郷さん、お久しぶりです。ええと、そちらの方は……」
「はい、さっき電話で連絡しておいた僕の助手です」
「な……」
 文句を言いかけた俺のセリフを、稔はひじで俺の虚を小突いて止めた。言いたいことはやまほどあったが、とりあえず俺はグッとこらえてことの成り行きを見守ることにした。
 まもなく、俺の服装を見て苦笑いしていたその和服の女性の後ろから、ひょっこりと誰かが顔を出してきた。
「おや? 稔殿のおでましかい?」
「ええ、久しぶりですね。河内さん、それに佐渡さんも」
 稔に「河内さん」と呼ばれた女性は、おそらく七年前にもここにいたという河内恵子のことだろう。資料からすると今の彼女の年齢は三十前のはずだが、両肩にぶら下がるおさげが彼女を幼く見せている。そしてもう一人。
「……」
 稔が「佐渡さん」と言いながら、視線を河内さんの後ろに向けなかったら気がつかなかっただろう。彼女の後ろには、何も言わずに佇む黒髪の長い女性、佐渡静香がいた。服の系統が暗いこともあり、根暗な印象がひしひしと伝わってくる。
「諏訪さんは今部屋にいらっしゃいますけれど、呼んできましょうか?」
 着物の女性が尋ねてきた。河内さん、佐渡さんがここにいて、稔の依頼人の諏訪さんが部屋にいると言うのだから、消去法でいけば彼女はこの館の現当主、奥野美和さんということになるのだろう。まあ今の世の中、他人の家に着物で訪問する女性を見つけるのは至難の業だろうが。
「いえ、あとで構いませんよ。先に荷物を置かせてください。部屋は七年前と同じ場所でいいんですか?」
「あら、やだわ。まだ荷物をお持ちのままでしたわね、ええ、七年前と同じ部屋でどうぞ。助手さんは、隣の部屋をお使いください。鍵はすぐにお持ちしますから」
 稔はそれを聞くと頷いて廊下に上がり、向かって右手に歩き出した。もちろん靴は靴棚へ。河内さんの「あのあんちゃん、やたら奇抜な服装してんなあ」という呟きを無視しつつ、俺もそれに倣う。廊下はすぐに左に折れていて、そこを曲がると右手には部屋がいくつか並んでいる。玄関正面の部屋は襖で区切られていたが、それ以外は普通のドアで隔てられている。部屋がいくつか連なる廊下を歩きながら左手を見てみると、中庭を挟んだ向かい側も同様の構造らしいことが見て取れた。
「ま、見れば分かるだろうけど、この屋敷は中庭を抱えるように大きなコの字の形をしている。便宜上こっち側を北棟、向こう側を南棟、さっき見た襖の部屋の食堂辺りを中央棟って呼んでいる。俺たち以外の客人は南棟に泊まっていて、奥野さんは中央棟に住んでいるんだ、そして……」
 稔は歩みを止めると南棟の突き当たりに視線を向けた。稔の視線の先には、えらく古風な蔵がそびえていた。
「あそこが七年前、失踪事件が起きた蔵だ」
 そうかあそこが……
「と感慨に耽るとでも思ったか? 稔。どういうことだ? 俺が助手だって?」
「やはりそう来たか。いや、だってその方が説明楽だし」
 逃げ口上になりながら、稔は目の前の部屋の戸を開けた。鍵がかかっていなかったところを見ると、さっき奥野さんが言っていた「鍵を後で持ってくる」というのは開錠用ではなく、施錠用だということだろう。ま、それはそれとして
「て、おい、逃げるな。俺の話は終わってない!」
 部屋の中へ入ろうとする稔の腕をつかんで、言葉を投げつけた。負けじと稔も言葉を投げ返す。
「俺は今から食堂に行って依頼を果たすための調査を行う。お前はこれからそこの蔵に行って実地見聞でもしてくれればいい。以上、俺の話は終わり」
「だから、俺がお前の助手ってのは納得行かないんだよ。それに依頼人に弱みを握るように言われたのはあの二人だろう。あんな二人にとても裏があるようには思えな……」
「甘いな」
 稔が急に真面目な顔つきになって俺の言葉を遮った。急にひぐらしが鳴きやみ、風がザワザワと木々を揺らす音だけが聞こえる――そんな錯覚に襲われる。
「彼女たちにも裏の顔ってのはあるんだよ。そしてその一面を、お前は間もなく目の当たりにすることになるだろうよ」
 稔の異質な雰囲気に気圧されて、俺はつかんでいた稔の腕を離してしまった。だが俺がつかんでいた腕を離すなり、
「ま、そういうわけで後はよろしく」
 稔は部屋の戸を閉め、鍵を閉めてしまった。
「あ、待て、この」
 慌ててノブを握るが、もちろん施錠されたドアが俺の力如きでこじ開けられるはずもなく、ドアは開きはしない。そんな俺をあざ笑うかのように、今度はやかましくひぐらしの鳴き声が聞こえてくる。
 俺は諦めて隣の部屋に荷物を投げ込み、蔵の調査へ出向くことにした。
 部屋の広さが家の事務所よりも広く感じたのは、室内の家具が椅子と鏡台とベッドのみという殺風景極まりない部屋だったからだと信じたい。
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