「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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死体(それ)はタイムマシンに乗って 事件編その5
結局俺は、蔵の中を数時間這いずり回り、何一つ見つけることなく部屋に戻った。部屋に戻った俺は稔にもらった資料を改めて確認しなおそうと思い、眺めているうちにいつの間にか眠ってしまったらしかった。
目が覚めたのは九時前だった。
「……寝すぎた」
 俺の呟きは、真っ暗な部屋に吸い込まれ消えた。とりあえず小腹が空いた俺は、食堂で何か食物がないかを探すことにした。

この屋敷に到着したときに奥野さんが出てきた襖を開けると、中にいたのはテーブルを拭いている奥野さんと、自前のノートパソコンで何かしら音楽を聴いているらしい稔だった。
「よう、今頃お目覚めか?」
 稔の皮肉を軽く手を振って受け流し、奥野さんに
「すみません、何か食べるものはありませんか」
 と尋ねてみた。
「あ、先ほどみなさんにお出しした残り物でよしければ……」
「それください」
 はい、と頷き彼女は厨房の方へ消えていった。その時だった。
 食堂の隅の電話が鳴った。
「奥野さん、電話ですよ」
「あ、はい、きゃっ!」
 軽い悲鳴とともにドンガラと何かが落ちる音が聞こえてきた。俺は夕食にありつくことへの諦めを抱きながら、奥野さんの代わりに電話に出てやることにした。ここの電話は発信元の番号が表示されるディスプレイが存在しないようだったので、このまま電話が切れたらかけ直すことが出来ないと思ったからだ。
「もしもし?」

「もしもし! よかった、出てくれて。閉じ込められたの! 早く出して! いえ……その前に美和叔母さんに代わってちょうだい!」

電話口から聞こえてきたのは切羽詰った諏訪さんの声だった。眠気が一瞬で吹っ飛ぶ。何か諏訪さんの身に、のっぴきならない事態が起こっているのか?
「落ち着いてください、諏訪さん。閉じ込められたって、今自分がどこにいるかは分かりますか?」

「は? どこって……そっちで分からないの?」
 
そしてそれが、俺が最後に聞いた諏訪さんの声だった。

「もしもし、もしもし!」
 唐突に切れた電話の受話器から聞こえてくるのは、気がつけばツー、ツーと無情に響く電子音のみとなっていた。
「くそっ!」
 俺は受話器を叩きつけると厨房の方を睨みつけた。折よく奥野さんが現れる。
「すみません、誠に申し訳ないんですが……」
「奥野さん! この屋敷内に外から鍵をかけられ、かつ内側から開けることが出来ないような場所は存在しますか?」
「は?」
「いいから答えてください! そういう場所はありますか!」
「え、ええ、蔵なら外から南京錠をかければ、内側からは開けられなくなります。ここ数年かけたことはありませんが……あ、どちらへ?」
 俺は奥野さんのセリフを最後まで聞くことなく、南棟の先、昼間見たあの蔵へと向かった。
「おい、どうしたんだ?」
 イアホンを外して稔が尋ねてきたが、構わず俺は食堂を走り出た。あとから奥野さんもついてくる。
 ほどなく蔵にたどり着いた俺はペンライトを鉄扉に向けたのだが……
「鍵がかかっていない?」
 昼間見たときには気がつかなかったが、確かに鉄扉には南京錠がぶら下がっていた。と言ってもあくまでそれはぶら下がっていただけだ。別にかけられているわけではない。
 おかしいと思いつつも俺は鉄扉を開けた。ペンライトで照らすが、やはり人がいた形跡は見当たらない。
 俺が蔵の前でしばらく立ち尽くしていると、遅れて稔もやってきた。
「どうしたんだよ、一体何があったんだ?」
「さっき諏訪さんから電話があったんだ。どこかに閉じ込められたらしいんだが……」
「閉じ込められた?」
 稔が目を丸くする。稔を無視し、俺は南棟の部屋を手前から順に片っ端から開けていった。勿論誰もいない。奥から三番目の部屋に至り、初めて鍵がかけられている部屋にあたった。
「そこは、燈子ちゃんの部屋ですね」
 俺のいわんとするところを理解してくれたのか、奥野さんはマスターキーと思しき鍵で黙って開錠してくれた。扉を開けて電気をつけるが、家具がほとんどないので、人が隠れるスペースはさして見当たらず、それゆえに誰もいないのは一目瞭然であった。
「何しとるん? こんな時間に」
 声のほうに顔を向けると、河内さんが一番奥の部屋から顔を覗かせていた。相当顔が赤い。酔っているのだろうか? というかそもそも、どうして関西弁なのだろうか? 酔うと地が出るタイプなのか?
「諏訪さんを探しているんですよ、さっき『閉じ込められた』って電話をよこしたきり、連絡がつかないんです。どこに行ったかご存知ありませんか?」
俺の緊迫も疑問をもものともせず、稔が問いかける。
「知らんなあ。あいつのことやから、ただのいたずらとちゃうん? ……でも、稔さんは、あんなわがまま娘がタイプなん? 私という、私という存在がありながら……」
 と言うなり、いきなり泣き出してしまった。呆気に取られる俺を尻目に、
「おい、部屋の前で泣くんじゃねえ! あたしがお前をいじめているみたいじゃねえか、さっさと部屋に入りやがれ!」
 部屋の中から怒号が聞こえてきた。聞き覚えがない声だが、もしかして……
「落ち着いてください、佐渡さん。すぐに僕たちも退散しますから」
 稔の声で確信する。やはり佐渡さんだったのか。もしかして河内さんは泣き上戸で、佐渡さんは怒り上戸……ということなのだろうか。
 ふと稔と目が合う。その目は言っていた。「意外な一面が見れただろう」と。あまり嬉しくないタイミングではあったが、先ほどの稔の言葉の真意を俺は理解することとなった。
 一応こっそりと部屋の中を窺ってみたが、部屋の中には河内さんと佐渡さん以外誰かがいる気配は無かった。

 その後俺は念のために駐車場を(考えてみれば駐車場にとめられている車には、どれも人が隠れるスペースはない)、稔と奥野さんは手分けして屋敷内の他の部屋の探索を、そしてその後皆で中庭の捜索をしたが、諏訪さんの発見には至らなかった。結局俺たちは、河内さんの「いたずらじゃないか」という言葉を信じ、その日の探索を打ち切ることにした。そこに多少の楽観があったことは否めない。

「本郷さん、本郷さん」
 翌朝、俺は隣の部屋の戸を叩く音で起こされた。
「無駄ですよ、奥野さん、稔の寝起きの悪さは俺が保証します。そう簡単には起きませんよ」
 俺が顔を出してそう告げると、奥野さんは明らかに安堵の表情を見せた。
「あの、あなたでも構わないんです、燈子ちゃんが……」
「見つかったんですか!」
 寝ぼけた頭が昨日と同様、瞬時に覚醒する。
「はい、その、でも……」
 そういったきり、彼女は言葉を詰まらせてしまった。顔面蒼白な彼女の挙動を見れば、俺でなくても彼女の言いたいことは分かっただろう。
「案内してくれませんか?」
 俺はただ一言そう告げた。そして彼女が案内してくれたあの蔵の中で、俺は変わり果てた諏訪燈子の姿を見たのだった。
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