「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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Who done it? その1 -探偵・勝の受難-
探偵・勝の受難

「さて、それでは勝(すぐる)探偵、君の推理を聞かせてもらおうじゃないか」
「その呼び方はやめて下さいっていつも言っているでしょう、羽山警部」
 尊敬と侮蔑が2:8でブレンドされた呼称と口調には、いつものことながら感心してしまう。会う度にハゲが進行している羽山警部から視線を逸らしつつ、私はこれ見よがしに大きなため息をついてみせた。
 羽山警部は、私がこの界隈で事件の解決を依頼されたとき、あるいはたまたま事件にまきこまれたときにいつもお世話になってしまう警部だ。いくら私が探偵をやっているとはいえ、若干大きすぎる遭遇率を考えると、彼とは何かしらの縁があるのかもしれない。……人の嫌味を天然で言ってしまうような人と縁があっても、全く嬉しくはないのだが……
 そんな赤の他人にとってはどうでもいいことを考えながらも、いつまでも黙っているわけにはいかず、私は乏しい現状認識を披露した。
「正直私も、現状を正確に把握しているわけではないんですよ。なんせ予定時刻だからって阿部さんに起こされて一緒に純輝(すみてる)氏の部屋を訪れたら、純輝氏の撲殺体を発見したってだけなんですから。だから私が今知っているのは、この館の主人である純輝氏が殺害されたってことと、凶器は部屋にあった花瓶だったってことと、解釈に苦しむダイング・メッセージと思しき血文字が残っていたことと……あとはそうですね、今日この館に招かれた私以外の三人には、純輝氏を殺害する動機があったってことくらいですかね」
「ふむ、それくらいは我々にだって分かっている」
 ならわざわざ私を呼ぶな、といいたくなるのを辛うじて堪える。
「しかし阿部さんに起こされたということは……君は事件発生時には寝ていたということかい?」
「昨日まで徹夜だったから疲れてたんですよ。ええ、それはもう泥のように眠っていましたよ。昼前に到着したのに、一度トイレにいくために部屋を離れたとき以外はずっと部屋にいたほどですからね。悪いですか?」
「いや、君らしいよ」
 そう言うと羽山警部は唇を少しあげて冷笑してみせる。これが均整な顔立ちの若手刑事ならまだ救いがあるだろうが、中年で禿頭一歩手前の刑事がやったところでただ嫌味なだけである。とはいえ……
「ま、君のことだ、どうせ事情聴取に付きあわせてほしいと思っているだろう。別に構わんぞ」
「いつものことながら、ありがとうございます」
 羽山警部ならこういう点に融通が利くのはありがたい。自分の横にいる何か言いたげな部下に左手で「黙ってろ」と示してみせると、羽山警部は右手で後ろの方を示してみせた。そこにはやや小さめのクローゼットがあった。そしてそのいわんとするところを理解する。
「まさか、あそこに入れと? 本気ですか?」
「他に君が隠れられるような場所があるかい?」
「確かにそうですけれど……」
「何、君なら充分入れるさ」
 反論しようかとも思ったが、これ以上言い争うのは不毛だと判断し、おとなしくクローゼットで事情聴取の様子を見学することとした。こういうところで融通がきかない羽山警部の頑固さを嘆きつつ、クローゼットへ向かう途中にわざと大きなため息をついてみせたことは言うまでもない。
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