「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
勝負の行方
 弟は今まさに、実の父に勝ち目の薄い勝負を挑もうとしていた。勝敗を分けるのは、決して腕力ではない。知力、タイミング、そして時の運……全てが噛み合わなければ、弟に勝利は有り得ない。僕に出きることはただ祈ることばかり――
 父さんも弟の手にするものを見て、弟の意思を悟ったに違いない。双方、睨みあったままなかなか動こうとしない。沈黙の対峙が痛々しい。
 ――どれほどの時が経っただろうか? もしかしたら実際のところは、それほどの時間は経っていないのかもしれない。弟がおもむろに両手でそれを差し出しながら――言った。
「ねえ、この犬、飼ってもいいでしょう、お父さん?」
「駄目だ、すぐに元いたところに捨てて来なさい」
 弟の直球による先制攻撃、そしてそれを一刀両断する父さんの返答。こうして犬を飼う、飼わないをかけた父子の対決の火蓋が、今切って落とされた。

「そんな……こんなに可愛いのに……」
 そう言って弟は、仔犬を胸元に抱えなおすと、そこに視線を落とした。ドーベルマンの血を引いているのだろうか? 真っ黒な短めの体毛に覆われたその仔犬は、親から受け継いだであろう凛々しさと、仔犬であるが故の可愛さを兼ね備えていて……なんていうか……その……反則的だった。おまけに……
「アン! アン! アン!」
 なんとまあ、鳴き声の可愛らしいことか! まだ声に全然迫力がないところがまたいい! きっと将来はもっと凄みのある声になってしまうんだろうけれど、それはそれでかっこいいんだろうなあ……
 僕の思いも知らず、弟の交渉は続く。
「どうしても……駄目?」
 上目遣いに父さんを見上げながら訴える弟。まなじりには涙のおまけつきだ。ウグッ、と父さんが言葉に詰まる。そりゃそうだろう、誰でもあの顔で頼まれごとをしたら無下には断れないに違いない。タイミングも悪くない。
「だ、駄目なものは駄目だ! 大体お前はこの犬の世話をちゃんとできる自信があるのか!」
 自らの心の迷いを振り払うかのように、大声で怒鳴り散らす父さん。でもそれは、迂闊な発言だった。案の定、弟もそのスキを見逃さない。
「大丈夫だよ! 散歩には毎日連れていくし、餌もちゃんとあげるし、トイレのしつけもちゃんとするよ! だからねえ、飼ってもいいでしょう?」
 そう、さっきの父さんの発言は、暗に『犬の世話が出来ない』ということを、犬を飼うことを禁じる理由の前提にしてしまっている。これは相手の弱点を突くことが出来れば非常に有用な戦法だけれども、そうでない時は相手に反論のスキを与えるだけに過ぎないのだ!
 さらに弟は攻撃の手を緩めない!
「ねえ、いいでしょう?」
 言うや否や、自分の顔と仔犬の顔を上下に並べると一歩前に出る。子供の可愛さと仔犬の可愛さのダブル・アタック! そしてさらに……
「アン! アン! アン!」
 計ったかのように仔犬が鳴きだした。タイミングは完璧だ。今更ながらこれが計算づくのことなのか、それとも天然なのか気になってきた。どちらにしても我が弟ながら末恐ろしいやつだ……
 暫くウググと唸っていた父さんだったが、やがて諦めたかのようにため息を一つついて呟いた。
「……負けたよ、分かった、その犬を飼ってもいいぞ」
「やったー! ありがとう! お父さん!」
 言いながら弟は犬を床にそっと降ろすと、父さんに抱きついた。父さんの方もまんざらでもなさそうだ。僕も嬉しいこと限り無い。
「そうだ、飼うと決めたからには、名前を決めてやらなくちゃいかんな……」
「あ、それならもう考えてあるんだ」
「ほう、一体なんて名前かな?」
「へへっ、聞いて驚かないでね、かっこいい名前なんだから。そう、この子の名前は……」
 弟はもったいぶってそこで一呼吸置いてから、その名前を告げた。
「ケルベロス!」
 ケルベロスと呼ばれたその仔犬は、気に入ったとでも言わんばかりに三つの首で同時に
「「「アン!」」」
 と一声鳴くのだった。

 こうしてケルベロスを飼うことをクロノスに許可されたゼウスが、クロノスの腹の中に囚われている兄であるハデスを助け出し、彼にケルベロスを譲ることになるのはまた別の話である。
琥珀色の南風で開催された第2回チャレンジカップ参加作品です。

テーマは可愛い。

下手に人を出すと可愛いを表現「できない」自信があったので、こういう変則手で勝負。

とりあえずギリシャ神話をベースにしていますが、別に正史じゃないのでご注意を。

「ケルベロスってもとはゼウスが飼っていたんだぜえ」とか言って笑われても責任は取れませんので悪しからず。

しかしこの作品については割と勢いで書いた割には評判がよかったんですよねえ。

どうも僕の中の評価と周囲の評価が噛み合いません。

オチにはまあ自信がありますが。
スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
はじめまして。
おもしろかったです。かなり好きですこういうの。
今日は時間が無いので推理小説はまた読みにきますね♪
2006/11/12 (日) | URL | へーむ♪ #pprjMJPo[ 編集]
返信遅れて申し訳ありません。
推理小説の方は、今月中にはアップしなおす予定なので、今から読むんだったらもう暫く待ってもらったほうがいいかもしれません(汗)。
へーむ♪さんのブログもなかなか面白そうなことをやっているようですし、今度ゆっくり拝見させていただきます。
2006/11/14 (火) | URL | 相応恣意 #z8Ev11P6[ 編集]
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2006 「メビウスの輪」の表側 all rights reserved.
Powered by FC2 blog. Template by F.Koshiba.
 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。