「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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秘めたる想い
 数時間前に卒業式を終え、閑散としている校舎裏――遠くからは校庭で部活に励む在校生たちの声が微かに聞こえてくるが、それを除けばいたって静かなそこに、一本の桜の木がある。
 まだ三月の初めだというのに、既に花を咲かせ始めているその木の下に、二人はいた。
 一人はこの学校の教師で、勤続四年目にしてようやくスーツ姿が板についてきた男。
 そしてもう一人は、今日でセーラー服が着納めとなる少女。
 ハラハラと桜吹雪が舞い散る中、少女は一言二言告げると、不意に男に手紙を押し付けて走り去っていった。男はそれを止めようとするものの、とっさに伸ばした手は彼女には届かず、その場に取り残されることとなってしまう。
 男は一瞬途方にくれたような表情を見せたが、すぐに自分の手元の手紙に視線を移した。
 ためらうようなしぐさを見せたのも束の間、彼はその手紙の封を切った。



先生には三年間、本当にお世話になりました。
 最初はこんな新米に担任なんか務まるのかなって思ったけど、私の思い過ごしだったみたいだね。
 先生が最初に私たちに言ってくれたこと、覚えてる?
『一年生の時間は行く、二年生の時間は逃げる、三年生の時間は去る、お前たちの高校生活は本当にあっという間のものだから、精一杯楽しめ』
 そんな感じの言葉だったよね?
 私は先生の言葉、ちゃんと守れたと思うんだ。
だってこの学校で手にした思い出は、どれも私にとってかけがえのないものばかり。

右も左も分からなかった私たちの心を一つにしてくれた文化祭――

調子に乗って食べ過ぎて、お腹を壊してしまったことも今ではいい思い出だって言える修学旅行――

最後の最後で大逆転、念願の初優勝を飾った体育祭――

どの思い出も、みんながいたから楽しかった、嬉しかった。
でもいつの頃からか、それだけじゃないって気づいたの。
みんなだけじゃなくて、先生もいたから楽しかった、嬉しかった、そしてかけがえがなかったってことに。
でもそれに気づいたからこそ、私はとてもいたたまれなくなった。
私は先生と一緒にいるとき、いつも自分を偽ってきた。
自分の心の声を必死に押し殺しながら、学園生活を送ってきた。
多分このまま卒業したら、それをきっとずっと後悔することになると思う。
だから――最後に言わせてください。



みんな、先生がヅラだってことに気づいてますよ。



「バレてたのかー!」
 


男の悲痛な叫びが、校舎裏に空しく響く。
そしてその一文が男にとって衝撃的だったが故に、彼は、最後の一文には気づいていない。


でもそれでも、私にとって先生は、一番大切な人です。


少なくとも、今はまだ――――
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