「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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私立竹下学園百人一首部奮闘記 1年目4月-2
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 PRは、えてして文化系の部活では気合が入っていて、体育会系の部活ではそれほど熱心ではないことが多かった。
 なんとなく逆の方が自然のような気もするが、よく考えれば当然のことかもしれない。なぜなら野球部やサッカー部のような体育会系の部活は、普通、PRなどしなくても、勝手に部員は入ってくる。それに対して文化系の多くの部は、黙っていたらそもそも存在を知ってもらえない恐れがある。そこに熱意の差が生じることになるのだろう。
 それにしてもここの部活は随分とバラエティーに富んでいた。
 体育会系では、陸上、サッカー、野球、テニスといった定番どころだけでなく、ラクロス、アメフト、相撲といった、他ではなかなかお目にかかれそうにない部活の姿も目立つ。
 文化系になるともっとすごい。軽音楽部、鉄道研究会、パソコン研究会を皮切りに、漫画研究会、アニメ研究会、イラストレーション研究会と、素人目には違いが分からない部活が紹介されていく。
 もっとも度肝を抜かれたのは、玉野忍(たまのしのぶ)ファンクラブだった。聞くところによると、玉野忍とはこの学校の生徒の一人であるらしい。そんな一生徒に対してファンクラブができてしまうというのも恐ろしいが、それが部活として認可される点も驚きだ。こんなPRを保護者の前でしてしまっていいのだろうか。
 そんな風にして、校長の話を聞き続けるの比べて、はるかに退屈しないPRタイムが続いたが――どの部活も、わたしの琴線に触れるには至らなかった。
 やっぱり陸上部に入ろうかな……そう考えているうちに、いよいよ最後の部活のPRが始まった。
 最後の部活は変わっていた。直前の囲碁部が舞台袖に引っ込むと、眼鏡をかけた男の人が1人で1枚、そして女の人が2人で1枚畳を持って登場したのである。
 その畳だけでなく、出で立ちもまた奇妙だった。皆、お揃いのTシャツに、ジャージ姿なのである。
 何をするのかと思っていると、その2枚の畳を隣接させて、畳を運び込んできた男の人と、女の人のうちの一人が、こちらに対して横を向けて向かい合わせに畳の上に座り、何かを並べ始めた。
 出席番号の都合で、どちらかと言えば前の方に座っているわたしでさえも見えなかったのだ。おそらく何を並べているのか、ちゃんと見えている人は少ないだろう。
 体育館の中がざわつき始める。当然といえば、当然のことだろう。
 さて、これからどうやって始めるのだろうと思っていると、残っていた一人の女の人がすっと前に出る。
 綺麗な人だった。容姿端麗なわたしでさえも嫉妬してしまいそうないなるくらいに。
 長い黒髪を真っ直ぐ垂らし、柔らかな笑顔をたたえる彼女を一言で例えるならば、それは正に大和撫子だった。
 なんとなく、思う。もしかしたらこの人が先ほど話に出ていた玉野忍なのではないだろうか、と。この人にならファンクラブが出来るというのもうなずけてしまう。
 そんなことを考えていると、彼女はそっと、静かに右手の人差し指を唇に添える。
 それは幼稚園の先生が、子供たちを静かにさせるときに使うような、ほんの他愛もない動作だったけれど――たったそれだけの動作で、会場が静まり返った。
 それに満足したのか、彼女は軽く一度頷いてみせると、後ろを振り返る。いつのまにかに用意が出来ていたらしい。畳の上で正座していた二人も彼女に向かって頷く。
 それを確認すると、彼女は再び前を向き、大きく息を吸ってから、
難波津に 咲くやこの花 冬ごもり
 詠み始めた。
 その声は、マイクを使ってもいないのに、朗々と体育館中に響き渡る。あの華奢な体つきのどこから、一体あれほどの声量が出てくるのだろう、と不思議に思う。
今を春べと 咲くやこの花 今を春べと 咲くやこの花
 彼女の詠みに合わせて、畳の上に乗っていた二人が、腰を浮かせる。
 一体何が起こるのかと身構えていると、
む……
 2人の手が、弾かれたかのように畳の上の一角目指して飛び出す。
 刹那の交錯。
 直後、畳を叩く重い音が響き渡るのとほぼ同時に、畳の上の何かがこちらに向かって飛んでくる。
 その何かはわたしの目の前の人の何人かを飛び越え、わたしめがけて迫ってくる。
 とっさにそれを掴み取る。
「いつっ」
 飛んできた何かは、小さくて、片手で掴み取れるほどだったが、やたらに堅かった。
 そっと手を開いて見ると、そこには、
「われてもす ゑにあはむ とそおもふ」
 と縦書きで3列に記されていた。
「これってもしかして……」
「そこの人、大丈夫?」
 声の方を見ると、先ほど何かを朗々と詠みあげていた人が、わたしのほうを心配そうに見ていた。
「あ、はい、大丈夫です」
 一瞬、自分のことを指しているのだと気づくのに遅れて、返事が慌て気味になってしまう。
「そう、良かった」
 そう言って、彼女は心からの安堵の表情を見せてくれた。
 気づくと、後の二人もいつのまにか畳から降りて、こちらを心配そうに見ていてくれていた。
 そんな気遣いを嬉しく思っていると、わたしに声をかけてくれた女の人が、舞台袖からマイクを受け取って、
「さて、少々皆さんにはご迷惑をおかけしてしまいましたが、いかがでしたでしょうか。これが私(わたくし)たち百人一首部が行っている、競技かるたです」
 百人一首部……そうか、やっぱりこれは百人一首だったんだ、と手の中の札を改めて見直す。小さい頃、よく祖父の家で正月になるとやっていた。ただ、その時はこんなにも激しくなかった気がするけれど……
「百聞は一見に如かず、というわけでまずは皆さんに競技風景を見てもらったわけです。百人一首部には、様々な魅力があります。まずは、ご覧の通り競技において、男女の垣根がない点です」
 言われてみれば、さっきデモンストレーションを見せてくれた二人は、男の人と女の人だった。
 思っていると、今度は眼鏡をかけた男の人にマイクが手渡される。
「次に、この競技は、さっき見てもらえれば分かったと思うが、頭でっかちじゃ勝てない。相応の練習と、相応の体力が必要になってくる。もちろん記憶力、集中力といった、頭を使ったスキルも必要になってくる。ロジカルな面とフィジカルな面をこれほど見事に併せ持った競技は、他にはそうそうない」
 確かにさっきのような激しい動きに加え、記憶力、集中力が要求されるとなれば、これほど特殊な競技はそうそう見つかるものではないだろう。
 そしてマイクがもう一人の女の人――つまりさっきデモンストレーションを見せてくれた女の人に移る。
「最後に、この勝負は本当に一瞬の差で雌雄が決する、スピード感溢れる競技です。時には1/100秒、あるいはそれ以上の差で勝負が決まることもあるくらいです。この緊迫感は、他では味わえるものではありません」
 さすがにそれほどの差を、中学時代に競い合ったことはなかった。なぜって、ストップウォッチで測れるタイムにはどうしたって限界があるから。
「これを見て、少しでも興味を持ってくれた人は、ぜひ礼法室に来てくださいね!」
 最後は、最初の女の人がウインクとともに呼びかけて、PRが終了した。
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

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