「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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私立竹下学園百人一首部奮闘記 1年目5月-1
――そんな言葉をかけてもらったのは、生まれて初めてのことだったんだ――

 *

「……だけでなくて、学校一の美人、玉野先輩がいる部活に入ることになるわけだから……って聞いてるか? リュウ?」
 それは至極平凡な放課後……になるはずの日のことだった。僕らは高校生活初めての定期テストを終えた感慨に浸りながら、適当な席に腰を下ろして歓談に興じていた。
「え? あ、ああ、勿論聞いてたよ。部活をどうするかって話でしょ?」
 中学以来の親友である谷に、話を振られて、僕はいつものように適当に相槌を打った。
「ばぁか、その話はとっくに終わったっての。今はそこから一歩進んで、どの部に入るのが俺たちにとっての幸せかってことだよ」
 呆れたようにつぶやく谷。どうやら電線に止まる雀の観察をしているうちに、話が進んでいたらしい。ここは欲張らずに、聞いてたよと一言で済ませるべきだったか、いや、しかしそれは結果論であって、相手の話を自分が聞いてた振りをするのに話題を要約するのは決して悪いことじゃない、と自分を励ます。こうして「人の話を聞いているフリ」のスキルを高めつつも、今度こそちゃんと谷の話に聞きいる。
「いいか、さっきも言ったが、俺たちが部活を選ぶ上で特に注意しなくてはいけないのは、その部にどれだけ美人がいるかなんだ! この場合、男子の体育会系の部活だったら、マネージャーを含むことを忘れてはならない!」
 熱く語る、谷。教室に残っていた僕ら以外のクラスメイトたちが、一様に顔を強張らせる。今日がテストの終了日で、ほとんどのクラスメイトはさっさと初めての部活に、期待に胸を膨らませながら向かい、またそうでない生徒たちの大半は帰宅部という多くの学校に存在する由緒正しい部活に所属していたことが幸いして、それはごく少数だったけれども。
 もっとも僕自身、その由緒正しい部活に身をおこうとしているのだから、あまり皮肉を言えたものでもないだろう。中学の時は何らかの部活に入部することが強制だったから、谷と一緒に卓球部に入っていたけれど、ここではそういった強制はない。
 それに、谷にあわせていると、どうしても女の子の話になるのが性に合わない、という点も忘れてはならない。事実、谷が卓球部に入部したのは、一番可愛い子が多いのが、女子卓球部だったからだったりする。てか、どうして僕は谷と未だに親友でいられるんだろうね、ホント。
「それにだな、お前だって高校生になったんだ、いい加減好きな子の1人や2人できたってばちは当たらないぞ。というかむしろ、お前はもう少し女の子に興味を持ってやっと人並みなんだからな、そこら辺自覚しろよ」
 そう言って谷はこづいてくるが、言われなくたってそれくらい僕も自覚している。だからと言って、いきなり何かがかわるわけじゃない。
 どれだけ自分が変わりたい姿を思い描いたところで、変わろうとしなければ変われるはずもないし、そして僕には、今の自分を変える気など欠片もない。
 そう、相手のことなんてお構いなしに、他人を変えようとする人でもいない限りは、僕はずっとこのままでいられるのだ――
「で、話を戻すと、ここで大事なのはただ美人がいればいいということではなく……」
「探したぞ、君が山川(やまがわ)君だな?」
 ぬっと眼鏡をかけた見知らぬ男の人の顔が、僕と谷の間にいきなり現れる。
「わっ!」
 思わず声を出して、座っていた椅子ごと後ずさる。
「いやいや失敬、そんなに怖がらないでくれたまえ、俺の名前は春野海。2年1組で、百人一首部の部長をやっているものだ。早速だが、単刀直入に言わせてもらおう、ヤマガワ君」
 実は僕の苗字はヤマガワではなくヤマカワなのだが、それを訂正する間も与えず、春野先輩は本当にストレートに要件を伝えた。

「我々は君に、ぜひ百人一首部に入部してほしいと思っている。
 君は我々百人一首部にとって、欠かせない存在になりうる素質を持っているんだよ」

 衝撃的な殺し文句だった。
 自分で言うのもなんだか、僕はとかく地味な存在で、誰からも必要とされるような存在ではない。友人らしい友人も、谷くらいなものだ。
 だから、

 そんな言葉をかけてもらったのは、生まれて初めてのことだったんだ。

 ゆえに、後ろで谷が何か言っていても、春野先輩についていきたくなるのは仕方がないことだった。
 その先に待っている、ほのかな憧れと絶望と、胸を切り裂かんばかりのとんでもない忍耐のことなんて、このときに分かるはずはなかったんだから。

 *

 春野先輩に連れられてやってきたのは、文化部の部室が集中した別館、通称部室棟の一角、礼法室だった。
「諸君、無事にヤマガワナガレを連れて帰ってきたぞ!」
 そう言って春野先輩は礼法室の扉を豪快に開け放つ。中にいたのは、先輩と思しき2人の女生徒――1人はこの学校では珍しいことに、標準服を着ている――だった。どちらも見たことのない顔だったが、一般的な観点から言えば、美人と称して問題ないであろう美貌を備えている。
「あら、その方が件の山川(ヤマガワ)さんですのね?」
「ふーん、この子が……」
 興味津々といった様子で2人とも僕を凝視してくる。
……注目を浴びているところ悪かったが、僕は先にどうしても1つ言っておかなければならないことを言っておくことにした。
「……あの、先輩方? さっきも言いましたけれど、僕の名前はヤマガワナガレじゃありません。ヤマカワリュウなんですけれど……」
 確かにどっちも漢字で書けば山川流だけれども……
「ああ、大丈夫だ、理解している。だが、百人一首部にいる間、君の名前はヤマガワナガレだから、そのつもりで!」
 高らかに宣言される。
 ……何、その謎規定。
「まあ今は不思議だろうけれど、すぐにその理由も分かるわよ。騙されたと思って、今日一日その名前を享受してみなさいな」
 髪が短めの方の先輩が、意味有りげに微笑みながら諭してくる。
「あ、自己紹介が遅れたわね、あたしの名前は小倉美雪。こっちの髪の長い方は、玉野忍で、どっちも2年生よ」
「ちなみに私(わたくし)は会計をやらせていただいております、美雪さんは副部長ですことよ」
 眩しいくらいの笑顔を副えて、玉野先輩――標準服を着ているのはこちらだ――が補足する。
「小倉先輩に、玉野先輩ですね、分かりました。他に先輩方はいらっしゃるんですか?」
「うむ、良いところに気づいたな!」
 小倉先輩が中指で眼鏡をクイッと持ち上げてから答える。
「そう、現時点で我々百人一首部の部員はこれだけしかいない! 即ち、今なら入部するだけで即レギュラー入りが確定するわけだ!」
 堂々と言ってのけたけれど、それって威張っていえることなのだろうか、と疑問に思わずにはいられない。でもまあ、この人のテンションだと、それでもいいかと思えるから不思議だ。
「一応、あなた以外で1人、入部しそうな子はいるんだけれどね」
 苦笑気味に小倉先輩が呟く。
「あ、そうなんですか? その人は今日は?」
「さあ、どうでしょうか? 最近諸事情により、お顔をお見かけしていませんから……」
 玉野先輩がそう呟いたときだった。
「すみません、遅くなりました!」
 開け放たれたままのドアから、誰かの声が飛び込んできた。振り向くとそこには――
「最近、陸上部の勧誘がしつこくって……」
 僕とは正反対の、気の強そうな瞳、変則ツインテールという他には滅多に見ない髪形、そしてなぜか毎日律儀に標準服を着てくる――
「瀬尾さん?」
 クラスメイトである瀬尾早未さんがいた。
「え?」
 名前を呼ばれて、初めて視線をこちらに向ける。
「あら、あなた……」
 そしてそこに、昨日まではいなかったはずのクラスメイトに気づくと……
「誰?」
 ――学校が始まって1ヶ月、僕はクラスメイトにすら名前を覚えてもらえていなかった。
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