「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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幕間 木山光一の与り知らぬ逸話 ―藤崎卓弥の場合―
幕間 木山光一の与り知らぬ逸話 ―藤崎卓弥の場合―

 薗部佳歩が現れてから二日目の正午前、東谷中学校にて――


 俺がやっとのことで春奈に追いついたとき、春奈は――

 人通りの少ない廊下の隅で泣いていた。

 声をかけるのははばかられたが、だがこのまま皆のところに引き返すわけにも行かない。声をかけるべく、肩に手を置こうとしたその時、
「どうしてなの!」
 春奈は叫んだ。驚いて目を丸くする俺に構わず、春奈は続ける。
「どうして、どうしてほのかさんは何も文句を言わないの! どうしてほのかさんはあの人の好きにさせてるの!」
 何が言いたいのかは分からない。どうやらほのかに何か不満があるようだが、とりあえず言わせるだけ言わせて話を聞いてみることにする。
「どうして……どうして光一は、あんなやつのためにピアノを弾いたりしちゃうのよ……」
 最後の方は、段々弱い声になっていく。だが、それだけ聞けば十分だった。
 そっと春奈の両肩を抑えてやる。
「深く気にすることは無いさ、あいつはいつも何も考えてないんだから」
 少なくとも、あいつは異性の気をひくためにピアノを弾く、なんて器用な真似ができるやつじゃない。
「でも……でも、あたしが弾いてって頼んでも弾いてくれないピアノを、光一は弾いたんだよ、あいつが……あいつが弾いてって頼んだから……」
 ボロボロと涙を流しながら、春奈はそう訴える。改めて、あいつは何も考えていないだけだと否定しようとして、だがそれより先に春奈が言葉を続ける。
「それに光一は……あいつのことをこいつとか、お前とかって呼ぶんだよ? あたし、今まで光一が女の子のことをそんな風に呼ぶところ……見たことが無い」
 首を激しく振りながら、春奈はまた叫んだ。
 それは俺も気になっていることだった。確かに光一の薗部佳歩に対する扱いは、いささかぞんざいすぎるきらいがある。あんな態度、ほのかに対してさえとったことはないだろう。あるとすれば――チラリと本人の姿を見つつ思う。

 あるとすればそれは、春奈に対してくらいのものだ。

 そしておそらくそれに、本人は気づいていない。さて、どう説明したものかと思ううちに、春奈の独りよがりな妄想は一人歩きを始める。
「きっと光一は、薗部佳歩のことを前から知ってたんだよ。でもあたしたちにそれがばれるのが嫌だから、知らない振りしてるんだ。それならあいつが光一の部屋に現れたのだって納得できるし!」
「落ち着くんだ、光一はそんな器用なことができるやつじゃないって、春奈が一番よく知っているはずだろう。あの薗部佳歩とか言うやつが嘘をついていることはあっても、光一が嘘をついているはずがない」
 あくまで声を荒げることなく諭す。俺の言葉に、春奈はキョトンとした顔になる。
「あの子が……嘘をついている?」
 一瞬しまったと思うがもう遅い。諦めてため息を一つつき、教える。
「今朝、俺と政史が遅れて来ただろう。あれはちょっと確認することがあったからなんだよ」
「確認って……何を?」
「名前だよ、名前」
 一呼吸おいてから告げる。
「ここ数年間の新聞の死亡記事を調べたんだが、少なくとも市内で薗部佳歩という名前が載った死亡記事は発見できなかった。それどころか、だ。彼女の名前は、鶴畑高校の過去二十年間の入学者名簿の中のどこにも見当たらなかったんだよ」
「そ、それって一体……」
「つまり彼女は、鶴畑高校の制服を着てはいるが、あそこの生徒ではないということだ」
 それを聞くと、力が抜けたのか、ストンと自分の体を俺に預けてきた。慌てて手に力を入れて支えてやる。
「へえ、そうなんだ……あいつが嘘を……」
 無防備にそう呟く春奈にドギマギしつつも、俺は心の中で呟く。

 政史、お前にとってのライバルは、どうやら俺にとってのライバルでもあるらしいぞ、と。
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