「メビウスの輪」の表側
福岡の某大学に通う学生が、日々のどうでもいいことを備忘録代わりに書き記したり、オリジナルの推理小説を中心とした様々な小説をを発表したりするブログです。
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悪魔に会うために 第4章 Meet again
第四章 Meet again

 目が覚める。
 時計を見ると、目覚ましが鳴る二分前だった。珍しいことがあるものだと思いつつ、目覚ましを鳴り出す前に止め、体を起こす。二分程度ではそう陽の当たり方も変わらないので、俺のまぶたをこじ開ける役目はちゃんと果たしてくれている。
 そこまでいつものように終えてから、いつもとは一味違う風景に、分かっていてもギョッとしてしまう。
 そう、部屋の隅には二日前同様、薗部佳歩が眠っていた。
 三日目の朝、現在時刻は三月三十日の午前七時。彼女に残された時間はあと二十九時間。
 そして協力者は俺を含めて四人――――それゆえに薗部佳歩は今俺の部屋にいるのである。
 昨日、春奈はなぜか中学校で機嫌を損ね、俺たちと一緒に小学校へ行くのを拒否した。卓弥の説得にも応じず、結局俺たちは春奈をおいて小学校へ行ったのだった。もっとも、そこでは中学校以上の大した成果を得ることはできなかったのだが……
 それはさておき、問題はその後である。特段、考えることなく薗部佳歩を家に連れて帰ったのだが、なんと春奈は彼女に対する協力を断っただけでなく、彼女を部屋に入れることまでも拒否しやがったのである。
 流石にこれには俺も堪忍袋の緒が切れたが、敵も然る者、強情なことこの上ない。
 結局、春奈の説得を諦めた俺は、彼女を部屋に入れることにした、というわけだ。
ちなみに彼女は自分は廊下でもどこでも構わないと言ったが、いくらなんでもそういうわけにはいかない、むしろベッドをお前が使って、俺が廊下に出るべきだとこちらは主張した。両者が譲歩しあった結果、ようは一日目と同じシチュエーションという解決で落ち着いた、なんて蛇足をつけ加えておく。
 さて、昨日はこれといった手がかりを集められなかったわけだが、今日はどうやって手がかりを探すことにしたかというと……
「リーサル・ウエポンの到着を待つってのは、他力本願もいいところだよなあ」

 午前中は、一応またほのかの家に集まって、軽く意見を出し合った。もちろんここにも春奈の姿は無い。なおかつ、これといった有益な意見が出ることもなかった。まあこの程度で答が出るなら苦労しない。それに皆、ある連絡が入るのを待っていたため、気もそぞろになっていたし、仕方がないことだろう。
 連絡が入ったのは、正午を回って暫くしてからだった。
 電話をとったほのかは軽く会話を交わし、すぐにこちらに戻ってきて告げた。
「今帰ってきたところだって。すぐこっちに来てくれるそうよ」
 俺たちは一様にホッとした表情になる。
「どなたか、こちらに来られるんですか?」
 不思議そうな表情で薗部佳歩が尋ねる。
 俺たちは顔を見合わせた。昨日の時点では他力本願であるがゆえの心苦しさから、彼女には何も伝えていないのである。とはいえここまで来れば隠しておくのもどうかと思う。皆を代表して、俺が答える。
「ああ、俺たちが知っている中でお前の姿を見ることができる、多分最後の一人、太田直之が来るんだ」
 直之は二日前から祖父の家にいっていたので、なかなかコンタクトがとれなかった。一応留守電にメッセージは残していたので、あいつならとりあえずは来てくれるだろうという思いはあった。だが、それなりに長時間の移動を終えた直後だから疲れていて来ないのではないか、という不安もあったわけで、結果としてそれは杞憂に終わったらしい。
 とにもかくにも、これで直之が薗部佳歩のことを覚えていてくれれば、それで万事解決と相成るはずなわけだけれど、さてそう上手くいくかどうか。仮に覚えていなかったとしても、どん詰まりになった現状に新しい意見を与えてくれれば、それだけで有意義だろうけれど。

 それから待つこと半時ほど、インターホンが鳴らされた。
 ほのかが玄関へと向かい、すぐに直之を連れて戻ってきた。
「皆、久しぶり、元気にしてたー?」
 いつものように明るい口調で、開口一番、直之はそう声をかけた。
「たったの二日なのに、相変わらず大げさな」
 苦笑交じりで卓弥が呟く。
「もちろんおいらたちは元気だよ。でも直之、そのスコップは?」
 そんな卓弥のツッコミを意に介せず、政史がそう尋ねる。確かに直之は、この場に似つかわしくないスコップを持参していた。
「え、何って、僕はてっきり今日……」
 言いかけた直之の視線がある一点へと引き寄せられる。そして直之の目が驚きで見開かれる。その視線の先にいたのは、やはりというかなんというか……薗部佳歩だった。
「直之、お前彼女に見覚えがあるのか?」
 返事がない。
「直之?」
「ん、あ、ああ、ごめん。僕は見覚えがないけれど、彼女がどうかしたの?」
 なんとなく違和感を覚える。直之のリアクションが、今までの誰とも微妙に違うような気がする。まだ何も、彼女が幽霊であることを示していない状態でこれだと、今までのように彼女が幽霊である証拠を見せたらどうなることだろう。
 少し不安に思ったが、話を進めるためには今までと同様のことをする必要があるだろう。
「とにかく直之、まあお前にも彼女の姿が見えるのは間違いないよな」
「彼女って……そこの鶴畑高校の制服を着てる子のことだよね? だったらそりゃあ見えるに決まってるけれど……見えないってことがあるの?」
 それだけ確認できれば十分だった。俺は薗部佳歩に合図を送り、いつものように手を机に通過させ、そして告げる。
「こいつの名前は薗部佳歩。見ての通り幽霊だ。ついては彼女のことで色々と協力してくれないか?」
「ま、まさかそんなことが……」
 やはり他の皆と同様に、直之の顔面も蒼白になる。だが……だがどうしてだろう。直之の驚き方は、他の誰とも違う気がする……
「直之、お前本当にこいつに見覚えはないんだよな?」
 俺がそう尋ねると、直之はハッと気を取り直して、
「うん、僕は今まで一度も彼女を見たことはない」
 そうキッパリと答えた。直之は嘘をつくようなやつじゃないから、ここまでキッパリと言い切るなら本当のことだろう。まあどうせ、直之が答を知っているなんて都合の良い展開にはあまり期待していなかったから、それはそれでよしとしよう。
「そうか、じゃあ今からこいつのことについて話すから、とりあえず荷物はそこら辺に置いて、よく聞いてくれ」
 薗部佳歩に関する説明も、今ではもう三回目。俺も慣れたもので、周りのフォローを受けつつ、比較的スムーズに説明をすることができた。
「そういうことだったんだね……もちろん僕も協力させてもらうよ」
 直之は予想通り、協力を快諾してくれた。
「ありがとうございます、太田さん」
 そう言って深々と薗部佳歩が頭を下げる。これで春奈が欠けているとはいえ、フルメンバーと言って差し支えない状態となったわけだ。
「じゃあ早速だけど直之、佳歩さんについて、あるいは悪魔の正体について知るためのいい案は何かない? 正直私たちはどん詰まりで」
 本当に早速、ほのかが尋ねる。
「うん、そのことなんだけど、光一、さっき僕に説明するときにメモとか見ることなく説明してたよね」
「え、あ、ああ」
「じゃあ、今まで分かってたことをメモにとったりはした?」
「いや、そういうことはしてないな……」
「じゃあまずはそこから始めようか。こういうことは案外、書き出してみると意外な発見があるものだよ。それにそうすれば、共有しきれてない情報に気づけたりするからね」
 直之の言うことはもっともだった。そこでほのかに何か書くものを頼もうとしたのだが、それを見て計ったかのように……というか多分、実際にタイミングを合わせたのだろうけれど、卓弥が紙とペンを手渡した。
「あ、ありがとう……ってこの紙は」
 卓弥の方を見ると、卓弥はそっぽを向いて知らん振りを決め込んでいた。
「……ま、いいか」
 その紙は、春奈が二日前に本当に少しだけ書き込みをしてそれっきりだったあの紙だった。幸いにも書き込むスペースは十分にあるし、まあよしとしよう。
「じゃあ最初は、とりあえず僕が今聞いた情報を整理して書いてみるね。で、足りないところがあったら、そこは説明不足ってことで、誰かが改めて説明してくれた上で書き足してくれればいいから」
 皆もそれに賛同する。確かにそれが一番効率のいい方法だろう。
 直之が手を加えたメモは次のような形に仕上がった。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
∧ルール∨
薗部佳歩は
・悪魔に大切な人の名前を言わせることで、蘇ることができる
・彼女のことを知っている人にしかその存在は知覚されない
・嘘をつくことができない
・悪魔、及び大切な人に直接言及するような質問に答えることはできない
・自分自身と他者の関係性についての質問に答えることはできない
制限時間は七十七時間、つまり三月三十一日の正午まで。それを過ぎると二度と蘇ることはできない。

●現時点で薗部佳歩を見ることができた人物
・薗部ほのか
・木山兄妹
・下川政史
・藤崎卓弥
・太田直之

●悪魔について
 薗部佳歩を殺した人物のことを指す。本当に悪魔であるわけではない。

●薗部佳歩の大切な人について
 名前が分かれば、薗部佳歩が蘇ることによる混乱が起きるわけがないことが分かるような名前。どこかの要人?

●今回の事件を引き起こした存在について
 神様が大枠を決め、神様の神様が詳細を決めて実行したらしい。詳細不明。

 調べなくてはならないこと
・誰が悪魔なのか
・佳歩さんの大切な人の名前は何なのか

 そのためにできること
・薗部佳歩と自分たちの関連性を探す→失敗
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

「こんなところかな?」
 なるほど、なかなか上手く仕上がってるようだ。要点がキチンとおさえられている。
「一つ気になるのは、蘇るための条件だよね」
「悪魔に大切な人の名前を言わせるってやつか?」
「そうそう、どうして誰かの名前を告げるだけで、人が蘇ることができちゃうんだろうね」
「どうしてって……そういう『ルール』だからだろう?」
 俺がそう返事すると、直之は首を振った。
「違う違う、もっと根本的に、どうしてそんな『ルール』を作ったんだろうってこと。確かこの条件は、神様が決めた大枠を自動的に満たすことができる条件みたいなことを言ってたよね。最初に神様が大枠を決めたときから、まさかそんな条件だったのかなあ」
 返答に詰まる。そう言われてもパッとは浮かばない。
「ま、そこはそれでよしとするしかないかもね。で、分かってるのはこれだけ?」
「そうだな、俺たちが今分かっているのは、こんなものだろう」
「本当に?」
「え?」
 逆に問い返されてしまい、ちょっと焦る。
「このメモを見る限りだと、肝心な情報がいくつか欠けてるなって思うんだけど」
「肝心な情報って、具体的に何のこと?」
 ほのかが尋ねる。
「まずは、薗部佳歩に関する情報が足りてないよね」
「それは、だって『ルール』のせいで質問できないから……」
「質問はできなくても、自分たちで調べることはできるでしょ。図書館に行って新聞記事を調べるとか」
 うう……手厳しい。とか思っていたら、卓弥と政史が目配せをしている。何だろうかと思ったら、意外な発言が飛び出した。
「俺たちが調べた限りでは、市内でここ最近薗部佳歩という名前の少女が死亡した記録はない」
 卓弥の意外な発言に驚く。いつの間にそんなこと調べていたんだろうかという驚きと、なぜそのことを黙っていたのだろうかという驚きである。
「そう……じゃあ記事にはなっていないんだろうね」
「それはちょっと短絡じゃない? 彼女が鶴畑高校の生徒だからって、市内の生徒とは限らないわけだし、それにもしかしたらまだ行方不明の扱いかもしれないでしょう?」
「ん? ま、そういう可能性もあるね」
 ほのかの指摘に、やや歯切れ悪く返答する直之。いきなりさっきの鋭い指摘が霞んでしまう。
「よし、じゃあそれはそれとして、後一つ、どうして彼女は光一のところにやって来たの?」
「あ、それは言い忘れてたな。何でもここが一番悪魔に会いやすい場所だからだそうだ」
 俺の言葉を聞いて、直之が黙り込む。
「なんでもこれをゲームにたとえるなら、いきなりラストステージに現れるようなボーナスだろうってほのかが言っていたけれど、言ってることは分かるよな?」
「……やっぱり、そうなのか……」
 搾り出すように直之が呟いた。
「やっぱりって、何がやっぱりなの?」
 ほのかが尋ねる。
「彼女に与えられた制限時間は七十七時間、そして残された時間はもう一日を切ってるんだよね」
「そういうことになるねー」
 政史が直之の問いかけを受けて返事する。
「でも、今のところ、彼女の姿を見ることができた人物――つまり彼女のことを知ってる人ってのは僕たちだけなんだよね」
「そういうことになるな」
 今度は卓也が返事する。直之が何を言おうとしているのかはまだ分からない。でもなぜだろう……何か嫌な予感がする。
「それでいて彼女がここに現れた理由は、ここが悪魔に一番会いやすいところだからってのはおかしいと思わない? もう残り時間を随分消費しちゃってるのに、悪魔に会える気配すらないよね」
「それは確かに……おかしいと言えばおかしいかもしれないけれど……」
 ほのかが答える。
「だからここは発想を転換するべきじゃないかな」
「え?」
 俺が思わず問い返す、そして、直之は、告げる。

「そう、悪魔の正体が僕たちの知らない誰かって、無意識の考えが間違っているんだよ。悪魔は僕たちの中にいるって考えるのが無難だと思うんだけど、どうかな?」
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